Episode:52
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
涙がこの人の上に落ちる。
「優しい、な……。
そんなに……優しくちゃ、さぞ……辛いだろうに……」
彼が、そっとあたしの手を握った。
――温かい手。
あたしたちと何も変わらない。
「ごめんなさい、あたし……なのに……」
「気に、するな。
これが……戦……争……」
ふっと、彼が目を閉じた。
「ごめんなさい……」
その場からあたしは動けなかった。
あたしたちが生き延びるために、どれだけの未来が絶ち切られたんだろう?
どうしてみんなで、一緒に生きていけないんだろう?
どうして……。
「やっと通れたー。この氷の壁って何?」
「うわ、こっちすごいね」
他の場所も一段落したのだろうか? どこからか他の生徒たちが集まってきた。
「これ、たった三人で? 信じらんない」
「これじゃ軍隊いらないな〜」
みんなが口々に感想を言う。
「やっぱAクラスだな」
「AどころかSSじゃない?」
あたしたちに贈られる、賞賛の言葉。
――聞きたくなかった。
「いったい何人殺したんだろうな?」
「数えてみれば?」
「――やめてっ!」
思わず叫ぶ。
周囲がしんと静まり返った。
「お願い、やめて……言わないで……」
また涙がこぼれる。
殺したくなんてなかった。
ひとりだって傷つけたくなかった。
それなのに……。
「学院の生徒にしては、ずいぶん安直な考えですね。
『人を殺す』ということがどんな意味を持つのか、それさえ理解していないのですか?」
泣いているあたしに代わってそう言ったのは、タシュア先輩だ。
「仲間のため、学院を守るため、理由はいろいろ付けられますが、所詮人殺しには変わりないのですよ。
もう少しよく考えなさい」
さっきまで敵に向けられていた冷たい視線が、今度は生徒たちに向けられる。