Episode:51
太陽が落ちたかのような光が辺りを灼く。魔竜の苦しげな咆哮が響く。
隙を逃さず、シルファ先輩が両足を切り飛ばした。
地響きをたてて、竜の巨体が倒れる。
『その、呪文を……易々と使うなど、お前は……』
「人間を甘くみて、長々と能書きなどを言っているからですよ」
タシュア先輩が答えて、漆黒の大剣を振り上げた。
「これに懲りて次からは気をつけるのですね。
――もっとも次はなさそうですが」
一瞬の残像。
魔竜の首が落とされる。
「どれほどの力があろうとも、使い方を知らなければ無意味なのですよ」
そう言う先輩の前で、音もなく竜の身体が崩れ始めた。
巨体が徐々に輪郭を失い実体を失い、やがて砂の山に変わる。
「さて、あなたがたの切り札とやらはこの通りですが?」
目の前で起きた予想外の事態に、兵士たちが硬直する。
「やる、というのでしたらかまいませんよ。本当の恐怖というものを教えて差し上げます」
息詰まる沈黙。
どちらも引き下がるわけにはいかない。
空気が張り詰めていく。
だが、それが破れる事はなかった。
突然彼らのあいだに、ざわめきが広がる。
慌しく人が行きかい始める。
その間も先輩は、警戒を解こうとしなかった。むろんあたしもだ。
――今まででいちばん長い時間。
と、通話石に報告が入る。
『停戦に成功しました。敵が攻撃をやめた場合は、あなたたちも応じてください』
そして……彼らが武器を捨て始める。
「我々の部隊は停戦を申し込む。貴殿らの温情ある措置を願う」
「善処しましょう」
タシュア先輩が将校たちとやりとりするのを、あたしはただ見ていた。
これで本当に、終わったんだろうか……?
あまりにもとつぜん過ぎて実感が湧かない。
――あんなにたくさんの人が死んだのに、こんな風に簡単に終わるなんて。
どうしていいか分からずに、辺りを見まわした。
累々と折り重なる屍の群れ。
狂気の、結末。
これを招いたのは、まちがいなくあたしだ。
「う……」
「えっ?」
うめく声に驚いて声の主を探す。
――生きてる!
敵のひとりが無惨な姿で、それでもまだ生きていた。
慌てて駆け寄る。
「いま、呪文を」
「お嬢ちゃん……むだ、さ……」
「でも!」
このまま放っておくことなどできるわけがない。
「いいんだ、もう……」
その言葉に、どう答えていいか分からなかった。