Episode:49
向こうから、難を逃れた兵士たちが迫ってくる。
先行しているシルファ先輩に続いて、タシュア先輩が出た。幸い心配したほど、体調が悪いわけじゃないみたいだ。
その周囲へ、敵兵が殺到する。
――それなら。
敵の陣形を見た瞬間、なにをすべきかが分かる。
これがあたしの……力だ。
「空の彼方に揺らめく力、絶望の底に燃える焔、よみがえりて形を成せ――フラーブルイ・クワッサリィっ!」
先輩たちめがけて、炎系最上位を放つ。
周囲に集まっていた兵士たちが、劫火に晒され灰になる。
「やれやれ、無茶をしてくれますね」
タシュア先輩が苦笑する声を聞く。ただその声は、どこか面白がっているようだった。
炎の中から光の尾を引いて、シルファ先輩が敵陣へ踊り込む。
淡く光る髪と身体。紫水晶の双眸。
大鎌が風を鳴らし、舞うように弧を描く。
刃が閃くたび、敵が倒れていく。
さらに猛火の中から漆黒の剣をたずさえて、タシュア先輩が歩み出る。
焔に照り映える白銀の髪。白い肌。紅い瞳。
そしてなにより、冷たい死神のまなざし。
「おや、他の方は見ているだけですか? それでよく、軍隊として成り立っていますね」
揶揄するような口調。
「うわぁぁぁぁっ!!」
耐え切れなくなったのか、兵士たちが闇雲に突っ込んできた。
白と黒の刃が閃く。
たちまち先輩たちの周囲に、骸の山が築かれていく。
そしてあたしは。
「幾万の過去から連なる深遠より、嘆きの涙汲み上げて凍れる時となせ――フロスティ・エンブランスっ!」
魔力全開の冷気魔法を、立て続けに後方へ放つ。厚い氷壁が出来て、ここから学院へ続く唯一の道がふさがれる。
こうしておけばいくらプロの兵士でも、そう簡単には侵入できないはずだ。
さらに足止めされた兵士たちに、呪文を叩きこむ。
「猛き龍の咆哮、風の悲しみは天へといのちを返す――ウラカーン・エッジっ!!」
放たれた竜巻が辺りを薙ぎ払い、風の刃が兵士たちを切り刻んだ。
恐らく初めて目にしたのだろう。常識を無視した魔法戦に敵がひるむ。
瞬間、容赦なくシルファ先輩のサイズが振るわれた。
一閃、二閃。
たちまち骸が積み重なる。
「――ば、化け物っ!」
「言うことはそれだけですか? もう少し、独創性がほしいものですね」
先輩の辛辣な言葉。
そしてあたしも、その兵士の言葉に傷つくことはなかった。
化け物でもいい。
この学院を、あたしは――守る。