Episode:48
大きく広がる入り江の影から、水面をすべるようにたくさんの小船が現れた。
船着場に戦力を回したとみせかけて、こちらに上陸部隊を出す。常套手段だ。
「ゴミばかり集めても、粗大ゴミが増えるだけなのですがね」
タシュア先輩が毒舌を放つ。
シルファ先輩が静かに目を閉じた。
その身体が、淡く輝きだす。
手持ちの精霊を開放して、同化する荒業だ。普通はこれをやったら喰われてしまうけど、シルファ先輩はよほど相性がいいらしくて平気だった。
揚陸艇が、遠浅の砂浜へ乗り上げる。
その前に立つ、あたしたち。
「我は呼ぶ、黒き雷を纏いし空の飛礫よ、現世にその姿を留め、全てを消滅せん――」
先輩の詠唱が始まる。
「鳴り響く時の内に棲む者よ、その稲妻持ちて我が敵を打ち砕け――」
あたしも召喚呪文を唱えた。
「――滅裂黒雷弾っ!!」
「――来いっ、アエグルンっ!!」
同時に呪文が完成し、瞬時にあたしたちの周囲が帯電する。
なにしろちょっとした建物ならまるごと破壊する魔法が、同属性でニ重にかけられたのだ。
先輩の呪文が生み出したいくつもの雷球から、無数の雷撃が放たれてあたりを薙ぎ払う。
あたしの呼び出した精霊からも、文字通りの「雷の嵐」が放たれた。
天から地へ、地から天へ、数十条のいかずちが駆け上がり駆け降りる。
空気がすさまじい放電を見せ、轟くほどにスパークした。
あの独特の匂いがあたりに立ち込める。
そしてもうひとつ、肉の焼ける匂いも。
許容量を遥かに超えた電圧がプラズマとなって、敵兵とその兵器とを襲ったのだ。
たちまちのうちに、人が焼け爛れ弾け散る。
強い電磁波に晒された生体の末路だ。
さらにシルファ先輩が、残像を描きながら切り込んで、生き残りに容赦なくとどめを刺す。
――殺戮兵器。
その言葉が脳裏をよぎる。
今のあたしと先輩たちは、まさに無差別殺戮のための兵器だ。
やがて……いかづちが収まる。
あたしたちを中心にした広範囲の円の中は、ひどく静かだった。
時折機械がショートする音が聞こえるだけだ。
「タシュア、何をのんびりしているんだ!」
向こうのほうから、シルファ先輩に怒られる。
「やれやれ、焦ったからといって、どうなるものでもないでしょうに。
――行きますよ」
歩き出しかけた先輩が、一瞬体勢を崩した。
「先輩、大丈夫ですか?!」
慌てて回復魔法を唱える。
あたしの精霊召喚と違って、先輩の魔法はその生命力を削る特殊なものだ。当然その効果が大きいほど、削られる分も大きい。
「ルーフェイア、これには回復魔法は効果がありませんよ」
言いながらタシュア先輩が、愛用の両手剣を抜く。
「あ、すみません……」
あたしも愛用の太刀を抜き放った。