Episode:42
要するにミルのヤツ、アヴァン国の貴族連中にやたらコネあるの利用して、こっちの政府を動かそうってんだろう。 んでそのために、自分をエサにするってことだ。
「けどよ、このシエラ学院ってMeSだぜ? MeSがたとえ攻撃されても立地国は感知せず、がキマリだろ。
そんなんで圧力ったって、かけようねーじゃん」
「そうでもないんだな〜」
狡猾、って言いたくなるようなミルの笑み。
「確かにMeSには感知せず、が原則だけど、領土は領土だよ? そこへ侵入許して攻撃させ放題で、あげくに要人に被害出たりしたらね〜。
領海外からやってるなら、そりゃ話は別だけどね♪」
「――オニだなお前」
「そぉ? 駆け引きって、こゆもんだと思うけどな〜」
ミルのヤツ、アヴァン国に同じこと言わせるつもりだ。
領海外から攻撃されたならともかく、領海内なのだから責任を取れ――こういう言われ方されたら、このユリアス国に逃げ道がない。
こんなこと考え付くとか、コイツ底ナシに腹黒い。
「ホント言うとさ、本土に連絡さえ出来れば、さっさとこれやれたんだよね」
ミルが珍しく、低いテンションで言った。
「でもほら、こないだの騒ぎで、学院外への通信できなくなっちゃってるから……」
騒ぎってのは、ちょっと前に副学院長が出てっちまった時のことだ。
あん時は実権握りたい副学院長が大騒動やらかして、教官までごっそり連れてっちまったわけだけど、アイツついでに高位通話石まで壊してった。
「あれやられちまうと、復旧大変だからなぁ」
細かい通話石を束ねる高位のヤツは、同じものを作るのが難しいから、壊れるとエラいことになる。
幸いこの学院はMeSなだけあって、予備が用意されてたけど、それでも学院外との通話はまだ未設定だ。 本土から人呼んでやり直すのに、あと何日かかかるって話だった。
「包囲されたら逃げようないし、これはダメかなーって、あたしも今度ばっかりは思ったんだけどね。
けど、門があるなら話が別でしょ。そこを通れば、向こうに連絡出来るもん」
「なるほどな……」
普段の言動からは思いもつかねぇほど、抜け目ねぇヤツだ。
「そゆわけだからイマド、しっかり伝言係してね〜」
気楽に言われる。
「まぁダメかもしれないし、そうなったらチビちゃんたちに、門通ってもらうしかないんだけどさ」
本人にその気はねぇんだろうけど、言ってる内容は思いっきり俺への脅しだ。
「でもさ、なーんにもしないより、ずーっとマシだと思うんだ〜」
「まぁ確かにな」
ンな話しながら走って、校舎の前まで来る。
惨状に、思わず足が止まった。
「ひでぇな……」
「ちょっとここまでとは、思わなかったねぇ」
かなりの数のケガ人だ。 それがまともな治療もナシのまま、大半がほっぽっとかれてる。
少し離れた場所、あっちこっちで倒れてるのは……死んで放置されてんだろう。 回収する余力なんざ、残ってねぇから。