Episode:04
女性のほうは、さっき話題にあがったシルファ先輩。
けっこう長身で、かなり背丈のあるタシュア先輩と並んでもバランスがとれている。瞳は紫水晶のような澄んだ色、背中まであるつややかな黒の髪をいつもストレートにおろしていて、落ちついた雰囲気だった。
あとどういうわけか、しょっちゅう女子から告白されるらしい。
ちなみにタシュア先輩が言うには「同格のパートナー」らしいけれど、生徒の間では「タシュア先輩の恋人」で通っている。
それと意外なことにシルファ先輩、男子の間では「無口で愛想がないから可愛げがない」と言われてるそうだ。イマドがそう教えてくれた。
――たしかにあんまりおしゃべりじゃないけど、とっても面倒見がよくて、お姉さんみたいな感じなのに。
男子の考える事はよく分からない。
「先輩、せんぱぁ〜い! こっちどうですか〜〜♪」
気が付くとミル、ぶんぶん手を振っている。
「やれやれ……そんなに大きな声を出さずとも聞こえますよ。もう少し周囲の迷惑を考えなさい」
呆れた調子でタシュア先輩が言った。でもちゃんとこっちへ来てくれたあたり、今日はいいことでもあったのかもしれない。
――それにしても周囲の迷惑って、あたしたちしかいないような?
もっともそれ以前に、この調子でタシュア先輩に声をかけるミルのほうが、何倍もすごいのだけど。
「それでいったい、何の用なのですか?」
いつもどおりのどこか冷たい声で、タシュア先輩が続けた。
そして騒ぎの主のミルは。
「日向ぼっこしません?」
「………」
思わずみんなで絶句する。タシュア先輩をこういう理由で誘った人は、きっと彼女が初めてのはずだ。
でも次は、もっと予想外だった。
「そうですね。大事の前の平安なれ、とも言いますからね。たまにはゆっくりするのもいいでしょう」
絶対なにか毒舌が返ってくると思ったのに、タシュア先輩はそう言って、シルファ先輩と並んでベンチへ腰を下ろす。
見やるとシーモアもナティエスも見事なくらいに石化していて、平気なのはミルひとりだ。
「ですよね〜。ゆっくりしないと、腐っちゃうもん♪」
ゆっくりしすぎたほうが、腐る気がするんだけど……。
なんかめまいがしてくる。
けど本当に、穏やかな昼下がりだった。
優しい陽光。
流れる潮風。
――ずっとこうしていたいな。
みんなも同じことを思ってるんだろうか?
誰も――あのミルでさえ――何も言わずに、ただ座るだけだった。
「そうだ! なんか食ーべよっと♪」
前言撤回。
「あんたねぇ、どうしてそうむやみやたらと騒ぎたてんのさ」
シーモアがまたミルの頭を小突く。