Episode:39
>Imad
やっと波が引いて、どうにか俺らは一息ついていた。
ただそれも、三度にもわたる一斉魔法攻撃でどうにか凌ぎ切ったって状態で、かなり死傷者が出てる。
従属精霊使ってる連中はともかくとして、それ以外でまだ普通に戦えるのは、かなり少なくなってた。
「まったくどこの誰だかは知らないが、ソイツはそうとう学院が嫌いらしいな」
セヴェリーグ先輩が誰にともなくつぶやいた。
もっともそう言いたくなる気持ちはわかる。ヤツらぜったい、こっちを根絶やしにしようってつもりだ。
――まぁそうじゃなきゃ、あんな戦力持ちこまねぇだろうけど。
それにしたってこっちは訓練生ばっかだ。プロ相手じゃ分が悪すぎる。
「次が勝負だろうな」
「ですね」
って言うか、次で決まらなかったらかなりの確率で負けだ。
――冗談じゃねぇって。
この学院は早い話、俺らの『家』だ。
別に比喩なんかじゃない。ここに来てる生徒のうち、帰る場所がないヤツはかなりの数にのぼる。
向こうの兵士連中は帰る場所があるかもしれねぇけど、俺らには後なんかありゃしなかった。
学院は文字通り、俺ら孤児たちの命を繋ぎ止めてる。
どっかの正規軍だろうが悪魔だろうが、カミサマ相手でも明け渡すワケにはいかない。
腹を括る。
もう出し惜しみなんざしてられねぇ。
その時。
『――学院長のオーバルです。これから学院の地下にある“門”を復活させ、開放します』
通話石から聞こえた声に、思わずみんな顔を上げた。
つかここ、そんなモンあったのか……。
「門」って呼ばれるワープゲートは、この星のあちこちに昔から点在してる。どういう仕組みかはまだ分かってねぇけど、かならず対になってて、片方から入るともう片方へ出られるってヤツだ。
ただ、ヘタに使うとヤバい。大人でも通ると目まいがしたり倒れたりするシロモノで、年寄りとか子供だと、けっこうな率で死体で出るハメになる。
あとどれも枯れる傾向で、使えなくなって放棄された門は数え切れねぇほどだ。
学院長が「復活」って言ってるとこからすると、ここにある門も、そういう枯れたヤツなんだろう。
――けど、復活ってやべぇだろ。
通るだけでも衰弱するってのに、それを復活させようなんてしたら、ピンピンしてる大人でも間違いなく死んじまう。
学院長は続けた。
『敵は未確定ですが、幾つかの物証から、ロデスティオの傭兵隊と思われます』
敵の正体を聞いて、みんながどよめいた。
確かに……あの隊相手じゃヤバい。つか、ここまで持ったこと自体が奇跡だ。
『正直なところ、彼ら相手に当学院では、勝ち目がありません。ですからどんな手段を使っても門は復活させ、撤退することとします。門が復活したら、低学年から順に――』
指揮取ってる先輩たちの抗議の声が、いっせいに通話石にあふれた。
つか、もし学院の全員の声を伝えられる設定なら、全生徒の抗議で絶対石が割れてるってヤツだ。
「冗談じゃねぇぞ学院長! 死ぬ気かよ!」
「そうよ、それにそんなとこにチビたち通して、殺す気なの?!」
聞こえねぇのを承知で、誰もが学院長に対して叫ぶ。




