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Episode:38

>Rufeir


 波が……引いた。


 どのくらい戦ったかはわからない。ただ鳥を落としたあたりから、襲ってくる敵の数が徐々に減り、気づくと完全にいなくなっていた。

 周囲を見回す。


――あたしが。


 数えたくない数の骸が足元に転がっていた。

 生きている者はない。


――文字通りの皆殺し。


 その中央に立って、あたしは虚ろだった。

 何も感じない。感じたくない。


 機械的に遺体を乗り越え、向こうに集められている負傷者の方へと行く。

 別に義務感に刈られたわけではなかった。

 ただ何かをして、考えないでいたかったのだ。

 目に付いた生徒から順番に、傷の程度に合わせて回復魔法をかけていく。


 惨憺たる有様だった。

 立っていられるのはまだいいほうで、自力で動けない生徒がかなりの数にのぼっている。そしてそのうちの何割かは、このままだったら死ぬだろう。

 セアニーはもう、息をしていなかった。お腹を裂かれて内臓が見えている。


――ごめんね、セアニー。


 こっちで頭を潰されているのは、カノンのようだ。指輪に見覚えがある。

 どうみても生きている生徒のうち半数は、もう戦うのは無理だった。


 負け戦。

 その言葉があたしの頭をかすめた。


 諦めるつもりはないけれど、確率としてはかなり高い。そしてあたしは、負けることの悲惨さを、この身で味わったことが何度もあった。

 傷ついた仲間を見捨て、やっと逃げ延びて……。


 けどこの学院に、逃げ場はない。もし負けることになれば、低学年でさえ死は免れないはずだ。

 最低限、痛み分けに持っていく必要があった。

 だが……勝ちは少なそうだ。

 だいいちこちらがこの有様なのに対して、向こうはまだ無傷の戦力が残っている。


「ルーフェイア、キミ、大丈夫? どっか……おかしいよ?」

「大丈夫です」


 あたしよほど疲れてる顔でもしてたんだろうか? ロア先輩が心配気に訊いてきた。


「そぉ? それならいいけど。でもムリしないでよ?」

「はい。

――それより先輩、このあとどうしますか?」


 先輩が肩をすくめた。


「……どうにもならないよ。かと言って、引き下がるわけにもいかないけど」


 それはそうだろう。

 どんな手を使ってでも向こうに兵力を引き上げさせなければ、あたしたち自身の命がない。


 かといって、方法はないに等しかった。

 向こうはおそらく相打ちでも構わないと思っている。でもこちらは、これ以上死傷者をだすわけにいかない。

 条件的にかなり分が悪いのだ。


「ともかく守りきらなきゃね。

 ルーフェイア、裏庭はキミが頼りなんだから、しっかり頼むよ?」

「……はい」


 そう言われてさっきの光景がよみがえる。

 周囲に折り重なる死体。

 うめく者さえない、物と化した人の群れ。


 本当は……逃げ出したい。

 戦いのない場所で閉じこもっていたい。


 けどそれが許されるわけもないことを、あたし自身がいちばんよく分かっていた。

 あたしは、戦力なのだ。

 例えば戦車や機関銃と同じように。


 そしてふと思う。

 「戦うこと」。それ以外にあたしに、価値はあるのだろうか?

 そもそも戦うこと以外なにも出来ないあたしに、どんな存在理由があるのだろうか?


 兵器としてみるなら――あたしは間違いなく優秀だ。

 でも、人としては?

 殺すこと以外知らないあたしは、果たして……。

 その時。


『――学院長のオーバルです』

 通話石から聞こえた声に、誰もが顔を上げた。






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