Episode:35
この地下はたしかにいちばん安全だが、一方で逃げ場が少ない。なんとしても食いとめなければ、またこの子たちが犠牲になってしまう。
そして気が付いた。
「ディオンヌ、その……あの子たちの場所を、変えたほうが……」
「え? どういうこと?」
訊き返される。
私が説明が苦手なせいで、上手く伝わらないようだった。
「いや……あの場所だと、だから戦闘の時に、あの子たちがもろに目に……」
「――? あ、そういうことね」
今度もどうにかディオンヌが察してくれた。
低学年は今、エレベーターの手前側にいる。この位置はたしかに広いし動きもとりやすいのだが、ひとつ問題があった。
南を向いているのだ。
激戦が予想される南側にいては、この子たちが殺戮の様子を目の当たりにすることになる。
学院にいる以上はいつか目にする光景ではあるが……今から見せたくはなかった。
なにかの事故でもない限り、六歳そこらの子供が目にするようなことではない。
「エレベーターの向こう側に移動させようか? 向こうなら、さほどでもないだろうし」
「そうだな」
すぐに子供たちを移動させてやる。
「たぶん……出入り口で戦闘になると思う。けど私たちが必ず防ぐから、いい子にしてるんだ」
全員にまたよく言い聞かせた。こう言っておくだけでも、かなり違うだろう。
そして――待つ。
息詰まる時間。
物音が聞こえた。
扉が破られる。
その瞬間を逃さず、私はサイズ(大鎌)を振るった。
血しぶきがあがる。
さらにもうひとり、何が起こったのかも分からずに立ち尽くしているところを切りつける。
これを合図にしたかのように、扉の所で死闘が始まった。
ディオンヌが回っている向こう側でも、さほどの間を置かずに戦闘が始まる。
ただ「扉」という障害物があるため、幸いにも敵が雪崩こんでくることはなかった。
足元に転がる死体が、徐々に増えていく。
――まさに、死神だな。
ふっとそんなことを思う。
低学年の子たちが見ようものなら、私のさまに怖れをなすだろう。
タシュアがよく言っていた。「戦争の狂気に飲み込まれるわけにはいきません」と。
だが今の私は、どうだろうか?
ためらいもなく刃を振るう私は……狂気に飲み込まれているのではないだろうか?
ぬめる足元。
向こうで子供たちが、息をひそめているのを感じる。
自分たちが助かることを願いながら、この恐ろしい時間に耐えているのに気がつく。
瞬間、なにかが吹っ切れた。
あの子たちを守るためならば、それが狂気であろうともいい。
今は何より、力が要るのだ。