Episode:34 抵抗
>Sylpha
低学年の避難を終えるのに、意外と時間がかかった。
だが避難したのが百人どころじゃないうえ、六歳の子までいることを考えれば、これは仕方がないだろう。
最後のクラスと一緒に地下へと降り、扉を閉める。
ナティエスを静かな場所に寝かせてから、私は後輩たちのほうへ振りかえった。
「みんな……無事だったか?」
この問いに、クラスの面倒を見ていた上級生がうつむく。
「そうか……」
だが落ち込んでいるわけにはいかなかった。戦いはまだ始まったばかりだ。
ざっと地下を見回してみる。
出入り口は全部で五つ。うちエレベーターは止められたようだから、さほど心配ないはずだ。
残りの四つは、扉の向こうが階段。敵兵が見つけたら、たちまち侵入してくるだろう。
この学院の構造を必死に思い浮かべる。
いま降りてきた北西の階段は、私も知らなかったほどだ。北東側の階段も割合見つけづらい。
やはり危険なのは、南側の二つだろう。
「シルファ!」
「――ディオンヌ?」
同じクラスの彼女も、上級傭兵隊だ。
「そっちの被害は……ってだいたいがシルファ、低学年担当じゃないでしょ?」
「え? あ、その……」
どう言えばいいのか分からなくなる。なにしろ私のしていることは、命令違反だ。
思わず口篭もった私を見て、ディオンヌが笑った。
「ま、とりあえず聞かないでおくけど。けど地下へ避難なんて考えつかなかった。やるじゃない」
「いや、これは私じゃなくて……」
「ということは彼氏? ま、シルファの彼氏ときたら性格はともかく、優秀だしね。
で、このあとはどうしろって?」
悪戯っぽい調子で彼女が尋ねてくる。
「その、そこまでは……」
だいいちタシュアに訊いたとしても、「そのくらいは自分で考えてください」と言われるだけだろう。
「なんだ、ちょっと期待したんだけど。
まぁいいや。そしたらどうするか、さっさと決めないとね」
「ああ」
彼女と二人で子供たちをみている年長クラスを一旦集めて、人数を確認する。
「この人数で、チビちゃんたちみきれるかな?」
そんな独り言をいいながら、ディオンヌが後輩たちを分けていった。
傭兵隊か候補生にあたる一六歳以上を守備に回し、十歳から一四歳の子にはさらに年下の子の世話を、頼むことにする。
「いい、あなたたち。ちゃんと言うこと訊くのよ」
「うん、わかった」
口々に低学年の子供たちが答えた。今が非常時であることは、さすがにこの子達も分かっている。
「ディオンヌ、できれば南の出入り口二つには、私たちが……」
「手分けするわけね」
全部言い終えるよりも早く、ディオンヌが察してくれる。
「たしかに上級傭兵隊はあたしたちだけだし、それがいちばんいいかな?
北の二つは分かりづらいみたいだから、他の子でも大丈夫だろうし」
「そう思う」
北側の二つに後輩を回し、南には私とディオンヌ、それになるべく年上の者がくるように調整する。
中央のエレベーターには一応、銃火器を持つもの少数充てた。
「後は待つばかりか」
肩をすくめながら彼女が言う。
「来ないと……いいんだが」
そんな言葉が口をついた。