Episode:33
いったん心を閉じ込めてから、周囲に溢れる苦痛の念に同調する。
自分が巻きこまれないギリギリのところでバランスを取りながら、そいつを集めて増幅させて……。
――行け。
一気に放つ。
俺みたいにしょっちゅう他人の念に晒されて生活してるならともかく、普通の人間がいきなりこんなもの食らったら、まずひとたまりもない。
思惑通り、いくつもの絶叫があがった。
狂気があたりを覆い尽くす。
怯え、怖れ、錯乱し、倒れてのたうちまわり、そのままショック死するやつも出る。
――まぁいいとこか?
もっとも俺のほうもそれなりにダメージは来て、荒い息で膝をつく羽目になっちまったけど。
「いったい……何をしたんだ?」
セヴェリーグ先輩が呆然としながら訊いてきた。
「一種の精神攻撃ですけど、上手く説明できません」
それに説明したって、どうせちゃんと理解はできないだろう。
「そうなのか……? まぁいい、だいぶ敵も減ったことだしな。
で、君は大丈夫なのか?」
「少し休めば、大丈夫です」
――多分。
ただこの状況じゃ、ダメですとはさすがに言えない。
「そうか。とりあえず君のおかげで攻撃も下火になった。少し奥で休んでくるといい」
「――すみません」
先輩の言葉に甘えて、救護班のあたりまで下がる。
「あれ、イマドどしたの? どっかケガ?」
どういうわけかミルのやつがいて、ごちゃごちゃと話しかけてきやがった。
「なんでもねぇよ」
「あ、そぉ? でもさでもさ、さっきのすごかったね〜♪ なにしたの?」
「るせぇなっ! 黙れよっ!」
気づいた時には俺、こいつを怒鳴りつけてた。
「イマドぉ?」
「――悪りぃ。ひとりにしてくれ」
「は〜い」
ミルが離れてく。
自分がかなりイラついてるのが分かった。
もっともずっとこの苦痛に晒されてることを考えれば、よく持ってる方だとは思う。
ともかく少しでも休もうと、感覚を遮断して閉じこもった。
――ダメか?
周囲の狂気を、シャットアウトし切れない。向こうの方が強すぎる。
冬の窓から冷気が忍び込むように、俺の中へ入ってくる。
いや、もしかすると、俺自身が狂気そのものかもしれなかった。
そして周囲をを惹きつけてるんだろう。
「イマド、出られるか!」
不意に呼ばれて、現実へ引き戻される。
時間は長かったのか短かったのか分からない。
「すまない、前線へ出てくれないか」
「――了解」
剣を手に立ち上がる。
本来あったはずの大義名分がどこかへ押しやられて、誰もが狂ってくように思えた。