Episode:32
――そういやタシュア先輩、たしかに見かけねぇな。
ってもあの先輩じゃ、命令なんか素直に訊くわけねぇし。ついでにシルファ先輩も見当たらねぇから、きっと二人して好きなとこで戦ってんだろう。
「まったく困ったやつだな。シルファもいないところをみるとあの二人、一緒か?
――イマド、居場所を掴めないか」
「ムチャ言わないでください。戦闘中にンなことしてたら、『殺してください』って言うようなもんですよ」
だいいちこの状況で精神集中して感応なんざした日には、探し出す前に他の連中の苦しみの念で、こっちがどうかなるだろう。
「それにあの先輩じゃ、絶対こっち来ませんって。そりゃ、いれば楽でしょうけど」
セヴェリーグ先輩が一瞬沈黙する。
「……まぁ、そうなんだろうが……。
にしても厳しいな。仕方ない、もう一度魔法いくぞ。後退しろっ!」
「了解」
いつまでも途切れない敵の攻撃に、やむなく先輩が後退の命令を出した。
カバーしあいながらの後退が始まる。
ただ退却ってのは突撃よりよっぽど難しい。
俺の隣にいた女の先輩が、後退し損ねて撃たれた。
とっさにその身体に手を回して、抱きかかえて連れていく。まだ生きてるのにこのまま放っておいたら、魔法で焼死体になるのは確実だ。
「助けて……痛い……」
「助かりたかったら黙って我慢しろっ!」
思わず怒鳴りつけた。
他の連中ならともかく、俺の場合は痛い痛いと騒がれっと、こっちまで被害こうむる。
けど人の身体ってやつは重い。俺も力がない方じゃねぇけど、普通には動けなかった。
「イマド、頭下げてっ!」
ミルの警告に、とっさに体勢を低くする。
頭上を弾が通り抜けて、後ろの敵が絶叫を上げた。
こんな言い方したくねぇけど、即死してくれたおかげでさして念を食らわずに済む。
どうにかこの先輩を抱えたまま、後退しきった。
「悪りぃな、助かったぜ」
「べっつに〜。でもあとで、お礼にご飯作ってね♪」
――このヤロ。
ちゃっかりしてるとはこのことだ。
「これで全員か?」
「――あとは死んでます」
メンバーを確認してる先輩に、気配を探って報告する。
また吐き気がした。
「そうか。誰か魔法使わないやつ、彼女を奥の救護班のところへ連れて行くんだ。
よし、もう一度魔法いくぞっ!」
さっきと同じように、炎系の魔法が一斉に放たれる。
あの灼かれる感覚もどうにか振り切った。
「思ったほどの効果はなしか。さすがに向こうも馬鹿じゃなかったようだな」
先輩の言葉に炎が収まった坂道を見ると、どうにか防ぎ切ったらしい敵が性懲りもなく来てやがった。
一応プロなだけあって、同じ攻撃はそうそう通用しないらしい。
――だったらこっちはどうだ。
俺にしか使えないテを試す。
魔法は防ぐ手段があるだろうが、これはそうはいかないはずだ。