Episode:31
>Imad
防衛ラインは、徐々に奥へと移ってきてた。
どうみたって不利だ。なんせ向こうときたら、きっちり装備整えたプロ出してやがる。
なのにこっちは上級傭兵隊がたった二人、他に従属精霊使ってるのが俺一人。戦力差は歴然だ。
こっちが防衛側で地の利があるのと、場所が狭くて向こうが一度に入ってこれねぇからどうにか防いでっけど、このままじゃジリ貧ってとこだろう。
「ったく、キリねぇな」
剣を振るいながら思わずつぶやく。
「ほぉんと、どっから湧いてくるんだろね〜?」
ミルのやつが能天気な調子で答えてきた。
――誰もお前の答えなんか期待してねぇって。
にしてもこの期に及んでもけろっとしてるのは、多分こいつひとりだろう。
しかも平気な顔して、敵の眼前へふらふら出ていきやがる。
「はぁい、そこどいてくださ〜い♪」
「な、なんだお前はっ!」
いや、訊くだけ無駄じゃねぇかな?
「やだぁ、おじさん知らないの? ミルちゃんだよ〜♪」
そう言いつつこいつ、サブマシンガン乱射しやがるし。
たちまち数人が倒れる。
しかもどういう神経をしてんのかミルのヤツ、にこにこしながら死体またぎ超えて、次の獲物を探しに行っちまいやがった。
――頼むからとどめ刺してくれ。
貫通力の高いサブマシンガンあたりだと、よほど当たり所が悪くねぇと即死しない。
当然苦しんだまま放置ってことになる。
ただこれをやられると俺の場合、そこら辺でうめいてるやつの苦しみがモロにぶつかってくるからヤバい。
――ちきしょう!
歯を食いしばって気合を入れた。
ケガもしてねぇうちから、戦線を離れるわけにはいかない。だいいちこの状況で精霊持ちの俺が下がったら、かなりの戦力ダウンになる。
にしてもミルのヤツ、ここのエースか?
むちゃくちゃなやり方とはいえ確実に敵を倒してやがる。しかも得物が俺らみたいな剣じゃないから、ある意味効率がいい。
もっともいくらミルの狙いがよくても、相手の人数が多すぎだ。掃射をくぐりぬけて肉薄してくるやつが後を絶たねぇ。
俺に向かって剣が振り下ろされる。
たぶん向こうは仕留めたと思ったはずだ。
切っ先が届く直前で身を引きながら、左へ避ける。
同時に電撃。
俺が右手で放った魔法石からの放電に、敵が絡め取られる。
「悪りぃな」
一瞬動きが止まったところで胸を突いた。
同時に来る相手の感情は、必死に聞かないようにする。
「イマド、やるじゃん♪ じゃ、あと頼むね〜」
「おい、どこ行くんだよ?」
すぐ脇を後方へと走りぬけるミルに、思わず問いただした。
「弾ないも〜ん。気が向いたら帰ってくるから♪」
「お前なぁ! 気が向かなくても戻って来い!!」
「ぶ〜☆」
例によってのブーイングは無視、とりあえず敵を片付けにかかる。
「おい、リドリア、お前のクラスのタシュアはどうしたんだ? あいつもここだろう?」
「あたしに聞かないでよ!」
すぐ向こうで、そんなやりとりを先輩たちが交わしていた。