Episode:30
幼い頃から考えるより先に身体が動いた。
呼吸するくらい自然に刃を振るい、戦場を駆けた。
――今も。
突っ込んできた敵の剣を、身体を入れ替えてかわす。その間に手は自然と太刀を振り上げて……一閃。
相手が倒れる。
それを横目で見ながら、今度は敵が固まってる場所に上位の攻撃魔法。
――あたしは、なんのために?
背後から襲いかかった相手には、後ろを向いたまま下位の炎魔法。
怯んだ隙に反転して斬撃。
――理由なんてなかった。
戦場で毎日を過ごしながら、本当はすぐにでも逃げ出したかった。
そうしなかったのは……周囲の期待と、勝手に動く身体とをもてあましたからだ。
あたし自身の思いとは関係なく、才能だけはあった。まるでプログラムされているかのように、身体は勝手に動く。
たまたま戦場にいて、なおかつそれだけの力があって。
ただそれだけの理由で、戦っていたことに気付く。
誰もが必死に戦っているこの場所で、自分だけがひどく浮いている気がした。
虚ろなまま手を血に染める狂った小娘――それがあたしだ。
「――来ないで」
唇から言葉がこぼれる。
三人同時ならと思ったのだろう、確信の表情で迫る敵兵。
「だめよっ! 来ちゃだめっ!!」
でもあたしの叫びなど聞くわけもなく……数呼吸後には彼らも、物言わぬ死体の仲間となる。
不意に風が舞い上がった。
あたしの長い金髪が踊る。
周囲を敵が取り囲んで、一斉に襲いかかってくる。
「お願い、来ないでっ!」
迫る幾つもの刃。
だがそれが、あたしに触れることはない。
「死にたくなければ来ないでぇっっ!!」
願いは届かず――炎が吹き上がった。
剣を振り上げた体勢のまま彼らが燃える松明と化し、たちまちのうちに灰となる。
こぼれた涙が、小さく炎にはぜた。