Episode:23
「え〜、なんにも聞こえないよぉ?」
ミルが騒ぎやがるけど、そりゃそうだろう。俺が聞いたのは声じゃない。
耳を――いや、心を澄ます。
眼前に裏庭の風景が見えた。
「――やべぇ」
「どしたの?」
ミルのヤツ、興味津々って顔だ。
「裏庭が――それに教室もかっ?!」
「だからぁ、どしたの〜」
子犬じゃあるまいし、キャンキャン吠えるな。
「ヤツら空中部隊出してんだよ!
船団が上陸してから攻撃なんて悠長なこと言ってたら、こっちが全滅だ!」
「あ、それたいへんかも☆」
俺の話聞いて、こいつが絶対に分かってねぇっぽい口調で騒ぎ立てた。
――調子狂うんだが。
「けどさ、先輩に言わなくていいの?」
「言われなくたって行くっての」
ともかくここの指揮を取ってる上級傭兵隊の先輩――キザなことで有名だけど、能力は折り紙つき――のとこへ走る。
「先輩、セヴェリーグ先輩っ!」
「ああ、イマドか。どうしたんだ?」
幸いこの先輩とはけっこー長い付き合いだ。そのうえ俺の「曰く」も多少は知ってっから助かる。
「敵の出した部隊が、もう裏庭を襲ってます」
「本当なのか? いや、君の能力を疑うわけじゃないんだが……まだ接触もしてないじゃないか」
「向こう、空中部隊まで出してんですよ。このままじゃ俺らが攻撃なんてする前に、こっちがやられます」
俺の言葉に、ほんの少しの間先輩が考え込んだ。
「――わかった。
十二〜十八班、校庭へ回れ。オルディス、指揮を頼む。
残りの班は、ここに残って侵入を阻止する。急げっ!」
「了解!」
指示が飛んで、一斉に生徒が動き出す。
指名された連中が素早く裏庭へ向かった。これで少しは向こうも違うだろう。
「こっちは多少時間がありそうだな」
また先輩が少しの間考え込んだ。
「――常套手段で気に入らないが、待ち伏せといくか」
ありきたりだけど、確実な方法を先輩が選ぶ。
校舎があるこの島は、周囲が切り立った崖に囲まれてる。海へ出られるのは船着場と海岸――意外と広い――の二ヶ所だけで、どっちも崖の間の坂道を通らねぇと、校舎は絶対行かれねぇ作りだ。
待ち伏せするには絶好の場所、ってヤツだった。
そりゃもちろん敵も警戒してんだろうけど、だからって罠を張らない理由はねぇし。
「今のうちにトラップを仕掛けよう。腕に自信のあるやつは、前へ出てくれないか」
この言葉に俺を含め、十人ちょっとが前へ出た。