表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/80

Episode:22

「――なんでぇ、だんまりかよ?」


 バスコが見下したような笑いを浮かべる。


「まぁ、戦いの最中に女を連れ歩くほど落ちぶれたキサマじゃなぁ。ムリねぇか」


 どこか勝ち誇ったような響き。

 瞬間、思い出した。

 タシュアには弟がいると、聞いたことがある。そしてどこかの傭兵隊にいることも。

 この弟は、兄にあたるタシュアを超えたいのだ。


 だが上手く言い表せないが……彼が知っているのは多分、タシュアになる前のタシュアだ。

 そして今のタシュアは、誰も手が届かないような高みへと昇りつづけている。


――自分を責め続けることで。

 それを、この弟は知らないだろう。


「ほら、なんとか言ってみろよ」

「――シルファ。

 ナティエスと低学年を、安全なところまでお願いします」


 弟の挑発を、タシュアは完全に無視する。


「先ほど上がってきた階段を利用して地下へ降りれば、当分は安全なはずです」

「タシュア……」


 彼が他人に頼み事をすることは、あまりない。だから断ることができなかった。

 だいいち悔しいが、私がここにいてもタシュアの足手まといになるだけだろう。


「頼みましたよ」

「――わかった」


 存分に戦えるようにと、急いで出口へ向かいかける。


「それからこれを」

「え?」


 驚いて振りかえる私に、タシュアが眼鏡を外して差し出した。

 血の色をした瞳が光にさらされる。


 以前タシュアが言っていた。この眼鏡は見るために必要なのではなく……制限するためのものだと。

 強すぎる力を制御するための、いわば手段だ。

 それを私に預けると言うことは――。


「預かっておいてください。後から取りに行きますので」


 その横顔には表情がない。

 表情がないからこそ恐ろしかった。


――やはり、本気なのか?


 私に怒りが向けられているわけでもないのに、身体が冷たくなる。

 タシュアは本気で弟を……。

 戦いが孕む狂気が、辺りを侵しつつあるようだった。



>Imad


 海岸に顔を揃えたメンバーは、だいたい一個中隊ってとこだった。

 資格が限定されっから、上級生のそうそうたる顔ぶればっかだ。次々出る指示にも、反応が早えぇし。


――って、俺が最年少か?

 けどもう一学年下で合格すんのはさすがにキビシいから、まぁそんなとこだろう。


「イ〜マド♪」

「なんでお前がここにいるんだよ……」


 さっきまで一緒にダベってたミルに声をかけられて、一気に不安になる。


――そりゃ、腕はたしかだけどよ。

 ただこいつ、どう考えても性格が……。


「え〜、あたしちゃんと、三級持ってるもん! すごいんだから☆」

「分かった分かった!」


 戦闘直前のピリピリしてるとこで、頼むから素っ頓狂な声で騒ぐなっての。

 案の定、周囲が白い目で見てやがるし。


「おい、シーモアはどうしたんだよ?」

「あ、シーモアはねぇ、船着場行ったよ♪」

「――マジ?」


 頭が痛くなる。

 一縷の望みをたくして周囲を見回してみても、やっぱ同じクラスは俺だけってやつだ。

 ってことは、俺がこいつのお守りか?


――冗談。

 ンなことしてた日にゃ、戦う前に倒れちまいそうだ。


「ねぇねぇねぇねぇ、イマド、そ〜いえばルーフェイアは?」


 こいつやっぱ学習機能ついてねぇ。またきゃいきゃいと騒ぎ立てて、周囲のヒンシュク買ってやがる。


「あいつ、検定受けてねぇんだよ」

「え〜、どしてどして? なんでイマド、ちゃんと受けさせてあげなかったの?」

「俺に言うな!」


 あいつの場合事情が事情だけど、それをここで言うわけにもいかねぇし。


「けどけどぉ、ルーフェイアいなかったらキビしいよね〜」

「いいんじゃねぇか? その分校舎の守備が堅くなるからな」


 他にも向こうには、運営に関わってるような先輩たちが回ってる。


「向こうがきっちり守ってくれれば、俺らは考えないで済むんだぜ?」

「でもぉ」


 その時……聴こえた。


「――悲鳴? どこだ?」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ