Episode:19
なんでよ! どうしてこんなことするのよっ!!
低学年のリティーナ――あのキザで有名なセヴェリーグ先輩の妹――が、切り刻まれてる。
手を、足を、胴の一部まで切り落とされてまだ生きてる。
それをこいつ、嬉しそうに眺めて悦に入って……。
「たすけ……おにいちゃ……たす、け……」
虚ろな目で天井を見ながら、リティーナがつぶやく。
けど、助けたいけど、近寄れない。ただ見てるだけ。
だからあたし、自分の苦無を投げつけたの。リティーナに向かって。
苦無には即効性の猛毒が塗ってあるから、当たればすぐに息をひきとるはず。
――これで楽になるよね?
狙いたがわず苦無は飛んで……リティーナに突き立った。
この子の身体から力が抜ける。
「邪魔するんじゃねぇよ……」
そいつが初めて声を出した。
ヤな声。ザラザラしてる。
「お姉ちゃん!」
「早く行くのよっ!」
あたしの厳しい声に、慌てて最後のちびちゃんたちが部屋を出た。
――よかった。
とりあえず、生きてる子はこれで全部だ。
苦無を構える。
あいつの武器ときたら、あたしじゃ持ち上がらないような戦斧。これじゃどうみたって、不利なんてもんじゃないかも。
でも、引き下がるもんか。
後ろには低学年がいる。あの子たちが安全な場所へ行くまで、時間だけでも稼がなくちゃいけない。
――先手必勝!
苦無を二本、立て続けに投げる。いくら大男だろうが力があろうが、かすればこっちの勝ち。
けど、甘かった。
戦斧が一閃して、苦無が叩き落されて。
その上あっという間に間合いを詰められた。
次の苦無を投げるよりまだ早く、戦斧が振り下ろされる。
とっさに腕をかざして身体をひねって……。
激痛。
左腕が切り飛ばされて、わき腹まで刃が食いこむ。
あたし悲鳴を上げたのかな? よく分からない。
倒れたあたしの目の前に立ちはだかるこいつだけが、いやにはっきり見えて。
酷薄な笑い。
――愉しんでるんだ。
そのことに気が付いて歯を食いしばる。
悲鳴を上げて、こんなやつを喜ばせたくないもの。
睨みつけてやったら、こいつの表情が変わった。あたしの態度、気に食わなかったみたい。
――ざまみろっての。
ちょっとだけ楽しくなる。
でもこのサディスト、それだけじゃ終わらなくて。
もう一度戦斧が振り上げられる。
鈍い音。
今度は……両足。
――負けるもんか。
目をつぶって歯を食いしばって激痛に耐えて。
「助けて」なんて、死んでもコイツに頼まない。
まぁ……言う前に死んじゃいそうだけど。
『手の空いてる隊、教室へ来てくれ! 低学年が襲われてる!!』
切羽詰まった感じで、通話石に報告が入って。
――ちょっと……遅いってば。
その時、誰かの手があたしを抱き上げたの。そして急に痛みが消えて。
やっとの思いで目を開ける。
「タシュ、ア……せん……ぱい?」
瞳に飛び込んできたの、意外すぎる人だった。
「喋らないように。傷に障ります」
言葉遣いはいつもとおんなじ。けど、ずっと優しい感じ。
――そっか。
いつもルーフェイアが言ってたっけ。タシュア先輩はいい人だって。
ほんとだったんだ。
ならあの子たち、きっと助かる。
「せんぱ……あの子……た……おね……が……」
ひどく眠かった。