Episode:10
>Seamore
昨日に引き続いて、あたしは校庭のベンチにいた。まぁミルのヤツに押し切られたってのが実際だけどね。
けどそれほど悪くもない。けっこうあったかいんだ、ここは。
「ねぇねぇシーモア、それで今日ってば、どっか行くの?」
「そのつもりだよ」
昨日ルーフェイアが言ってたのはホントだった。朝イチで外出禁止の解除が、部屋づたいに回ってきたんだ。
しかも今日は休日で授業がないから、学内は町へ出ようとする生徒でてんやわんやだった。あたしみたいにのんびり日向ぼっこしてるなんぞ、マヌケもいいとこだ。
「早くしないと、船に乗り遅れちまうね」
「えー、でも船ってば、午後にならないと出ないって」
「そうなのかい?」
どうもこの辺の細かい連絡が、最近はちゃんと回ってこなくて困る。
「うん、そうだよー。だからここで、日向ぼっこなんだもん」
「……あんたにそこまで考える頭があるとは、思わなかったよ」
「ひっどーい!
――あ、イマドだ」
毎度のことながら、ミルの言動は唐突なことばっかだ。
もっともウソは言ってないから、それだけでもマシとしとかなくちゃいけないだろうけど。
「シーモア、ルーフェイアのヤツ見かけなかったか?」
同じクラスのイマドが、声をかけてくる。
ダーティーブロンド。琥珀色の瞳。
気さくな感じの好青年に見える。
――ただあくまでも見た目だけなんだよね、コイツは。
なんせこの野郎、いざとなったら手段を選ばない。万が一ルーフェイアでも絡もうもんなら、マジ見境なくなるし。
「ルーフェイアは今日は見てないね。さっき部屋へ寄った時も、空っぽだったよ」
「そうか……」
「デートでもするつもりだったのかい?」
突っ込んでみる。
「ばーか。あいつにデートなんて高尚なもん、分かるわけねぇだろ」
「たしかに」
ルーフェイアの鈍さときたら天下一品だ。人のことはすぐ気が付くくせに、自分のこととなると、女子だってことも理解してるかかなり怪しい。
「しっかしあんたも、よく我慢してつきあってるよ」
「しゃぁねぇだろ。つーか、ガマンとかしてねーし」
「そりゃまた。でもアンタにはそうかもね」
激ニブのところを除きゃ、あの子はえらくいい子だ。優しくて繊細で泣き虫で、思わずかばいたくなる。そのうえ素直で疑うことを知らないんだから、イマドが惚れたのも分かろうってもんだ。
「けどなんだって、あの子探してんのさ?」
なんとなく気になって訊いてみる。
「別に大したことじゃねぇんだけどよ、メシ作るからついでに教えようかと思って」
「……はい?」
ウソみたいな答えに思わず訊き返した。
「それってさぁ、なんかすっごいヘン〜」
ミルがさらっと、ひどいことを言ってのける。
「そうは思うけどよ、なにせこないだ、泣きべそかきながら鍋と格闘しやがってさ。
あれじゃどうしようもねぇって」
これには爆笑。
「ルーフェイア、らしすぎ〜♪」
「あの子、才能ぜんぶ戦闘に取られちまったんじゃないのかい?」