ドラゴン召喚
開いて頂きありがとうございました。
ローチ国王女、ヤマトノヒメ。
艶やかな張りのある褐色の肌。
大きな黒目に、小さな顔、細い体躯。
長い手足は歩くだけでも舞うようにしなやかに動き、王国で一番俊敏である。
彼女は見る者すべてが、ため息をつくほどの美姫だった。
隣国に、ワモン国という大国がある。
ローチ国とワモン国との関係は良好とは言えなかった。
何年かの間、民族の違いからか、些細な諍い、衝突がが起きていた。
そして一年前、戦争がはじまった。
ワモン国は、色黒で大きな身体を持ち、力がある民族。
ローチ国は褐色の身体を持つ、小柄な身体を持つ民族。
ワモン国の強兵は、ローチ国を打ち破り、わずか一年の間でローチ国の半数の都市が攻め落とした。
ローチ国は水場と食料を抑えられ、渇きと飢えに苦しんだ。
国は投降しようという意見と、断固戦うべき、という意見で真っ二つに割れた。
ローチ国は、優秀な将と兵士を集め、戦力の大半を割いて都市の奪還を試みたが、ワモン国の強兵に討たれ、もはやまともな指揮ができる兵士も残っていない。
そして、停戦条件の話し合いが始まる。
少しでも有利な条件を、とローチ国の国王自らが条件の話し合いに参加したが、ワモン国は一切折れない。
ヤマトノヒメを奴隷身分としてワモン国の王に差し出す事。
ワモン国が全領土を掌握し、ローチ国民はワモン国統治下にて生存の権利を与える。
「話にならない!」
あまりに不平等な条件を突きつけられ断った王を、ワモン国はヤマトノヒメの前で殺害した。
そして、停戦はならず。ワモン国は侵攻を続けた。
侵攻といっても、王を殺され、まともに戦える将兵がいないローチ国。
ワモン国の軍が虐殺し、奪うだけ、という一方的な展開だった。
利用できそうなローチ国民は、捕まえられ奴隷身分とされた。
利用価値のなさそうなローチ国民は、その場で殺された。
「姫様、儀式の準備が整いました」
侍女にそう言われ、ヤマトノヒメは顔をあげた。
「……そう」
追い込まれたローチ国は代々伝わる王家の禁断の秘儀に頼る事にした。
ドラゴンの召喚である。
伝説によれば、ドラゴンは毒霧の魔法を使い、窒息させる毒液を持つ。巨大な体躯に圧倒的な力を持ち、見たもの全てを殺し尽くすという。
制御できるのは、ローチ国の王家の血を引く純血の姫だけだ。
さらに、儀式後はドラゴンへと生まれ変わり、ドラゴンの番いとして一生を過ごさなければならないという。
「姫様、本当によろしいのですか?戦況は悪いとはいえ、姫様を友好国に逃がすくらいの事はできますぞ」
「……父の仇を取れるなら、この身体を差し出しても構わない」
そして、ヤマトノヒメはドラゴンを召喚する準備を整えた。
王都の広場に巨大な魔法陣を書き、ヤマトノヒメは代々王家に伝わる禁呪を唱える。
グォォォォ!と、大きな鳴き声が国中に響く。
「……できた」
巨大な体躯を持った、私達とは全く異なる異形のドラゴンが、魔法陣から現れた。
「姫様、儀式を続けましょう。後はこのドラゴンに口付けをすれば言葉が通じるようになります」
「……はい」
そして、ヤマトノヒメはドラゴンの巨体に捕まりながらゆっくりと登り始める。
大きく、デコボコしている所にしっかり足を付けて、一歩ずつドラゴンの口元に近づく。
数分後、ようやくヤマトノヒメはドラゴンの口元にたどり着いた。
「眠っているようですね……」
そして、やれやれと口元で腰を下ろした所で、ドラゴンが目を覚ました。
ヤマトノヒメとドラゴンの視線が交差する。
「「…………」」
ウグォォォォ!
ドラゴンは大きく吠え、ヤマトノヒメを振り払おうとする。
「まずいわ、は、早く儀式をしないと……!」
そして、ドラゴンの口に自分の口を付けた。
パシン!
ドラゴンに振り払われたヤマトノヒメが、落下する。
「姫様!」
侍女が叫んだ。
儀式は失敗したのか、と落下したヤマトノヒメを不安そうに見ていると、ヤマトノヒメの身体は少しずつ膨れ上がっていった。
異形のドラゴンとなったヤマトノヒメの姿を、侍女は見上げた。
儀式は成功したのだ、という喜びと、美しく可憐なヤマトノヒメが、異形のドラゴンへと変わった事を嘆きながら、ドラゴンに殺されないように侍女は近くの影へと身を隠した。
読んで頂きありがとうございました。