第2話 おっさんは師匠
「どうしたらいいのか...タクミはこれからのことで考えていることはあるのか?」
俺の嘘を信じて険しい顔をしたままギルさんが聞いてくる。けれど頭の上の猫耳がピクピクしていることでその顔も怖さ半減だ。
(やっぱり、獣人ってやつなのかな? いや、そんなことよりここをどう乗り切るかだな!!)
そう思ったまま俺は顔を上げ、ギルさんの目をしっかりと見つめながら、
「正直なところ何も考えてません...僕に家族がいるのかもわかりませんし......」
「ふむ、確かにそうだな... 街まで送り届けても記憶喪失なら孤児院に行くことになるだろうし」
おお、近くに街があるんだな。それはいいことを聞けたが、街に行けば孤児院送りかぁ...
孤児か、確かに地球の頃も孤児に入るもんな...
かなり落ち込んだ顔を見せたからか、ギルさんが
「おぉ、すまない悪いことを聞かせてしまったな......」
「いえ、気にしていませんので!そんな顔しないでください!」
ものすごく顔は怖いが猫耳がシュンと垂れているので心配しているのが心から分かる。
「そうか?本当に大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です!!」
本当に優しいんだな!ギルさんへの高感度が俺の中でグングンと上がっている。
そう思っていると、ギルさんが決心を決めたような目で俺を見てくる、、
(え!?確かに優しくてかっこいいとは思ったけど俺はノーマルですよ!!)
「タクミよ、ワシとお前が出会ったのも何かしらの縁だとは思わんか??」
「えっ!? あっ、はい...たぶん」
(ちょいちょいちょい、だから俺は男に興味なんか無いって! まてよこのおっさんまさかのそっち系だったのか!?!?!?)
「うむうむ、そうだろうそうだろう。よし!!なら話は早いな!」
(良い人だと思っていたら物凄い変態だったっていうパターンかよ!! 俺、貞操の危機だよ!!)
「えーーっと、どういうことでしょう??」
自分の中で危険信号が鳴りっぱなしだが一応聞いてみる、
「ああ、ここにワシと住む気はないか?」
ギルさんは怖い顔ではなくとても優しい目で俺を見ながら言う、、
(うーーーーん、、、どっちだ!? この人はどういう目的で俺を誘っているんだ! あっちの方の目的なのか!?)
「...そのぉ、どうして僕なんかを??」
ついに言っちゃったよ、でも言わないと俺の身が危ないからな!!
「ハッハッハッ!! そうだのタクミを街まで送り届けるだけなら簡単だが、今となったら事情まで知ってしまったからな。そのままの別れじゃワシの寝覚めが悪くなりそうだからな!」
そういうことだ! と言ってのけた。
(うぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!! 俺はなんて失礼なことを考えていたのだろうギルさんは俺のことを真剣に考えてくれてたっていうのに......)
俺は自分の馬鹿さ加減に呆れを通り越していた。そしてギルさんのかっこよさに涙が出てきた。
「なっ!? なんで泣いているんだ??」
「いえ、...うれしくてつい」
「そうか! それならいいんだがここに住むということでいいのか??」
俺は涙を拭いお腹の底から、
「はい!!!! よろしくお願いします!!!!」
俺はこの森に住み、怖い顔をしているが実はとても優しい猫耳のギルさんと一緒に住むことになったのであった。
~~~~次の日~~~~
俺はギルさんに与えられた部屋で目を覚ました。
...いや、覚まされた。
「コラァー!!いつまで寝てやがる。さっさと起きんか!!」
なんで、朝早くからおっさんがイベント回収してんだよ......
ギルさんの大声で目を覚ました俺は部屋から出て、ギルさんのところに向かう。
「タクミ!! 起きるのが遅いぞ!さっさと走る準備をしろ!!」
(えっ!?嘘だろ? 何それ走る?だと...)
「えっと、どういうことですか!?」
俺はギルさんへ抗議の声を投げつける。
「どうもこうも無いわ!ここに住む以上体を鍛えるのは当たり前だろうが!!」
(初耳だわッ!!それにしてもこのおっさん今日はやけにピチピチした服を着てるな、それに服の上からでも分かるぐらいに鍛えてやがる...)
「ほれ!行くぞ!!」
「チョッ!!チョット!!」
ギルさんに引っ張られ朝のジョギングがスタートしました。
ギルさんはヒョイヒョイと年を感じさせない走りをみせてくる。
それに比べ俺は体が若返っていることと運動をあまりしていなかったことでギルさんとの距離が開いてしまう。
「コラ!足が止まってるぞ!それにまだ1㎞も走っておらんぞ」
「ハァ...ハァ...はい! がんばり、、ます」
俺は何とか言葉を発しギルさんに答える。
「よし!なら少しスピードを上げるぞ!!」
「ま、、待って!! 勘弁してぇぇぇーー!!」
ギルさんがもっと速く走り出す。下は小石や大石など整備されていないのになぜ走れるのか分からない。
「......っブハァー、、し、死ぬ...」
俺は力尽きその場に倒れた、
「まぁ今日はここまででいいだろう。少し休憩したら家に戻るぞ!」
そう、朝のジョギングはジョギングじゃありませんでした。
それと分かったこともある。木に結ばれていた布だがどうやらあれはギルさんの家から約1㎞ごとに結んでいるらしい。
この朝の地獄のジョギングのためにギルさんが付けたみたいだ。
「よし、タクミ休憩は終わりだ!家に帰るぞ!!」
「ぎ、ギルさん、帰りはゆっくりでお願いします!!」
俺は涙目になりながら訴える。
「ギルさんか...いや、ワシのことは師匠と呼べ!!」
「師匠ですか!?」
「うむ!師匠だ! よしそれでは行くぞ!!」
「ぎ、師匠ぉぉー!!」
師匠?は行きと同じく軽々と疲れも見せず走っていく。
(ゆっくりってお願いしたのにーーー!!)
朝から死にそうになった俺はなんとか家にたどり着くと、ギルさんが朝ごはんの準備を済ませており。
俺は吐きそうになりながらもギルさんに食べさせられた。
ご飯を食べ終わるとやっと休憩の時間ができた。
そう思ってました。
「タクミ!お前は記憶喪失なんだよな!?」
「はい!何も記憶がないのでそうだと思います。」
そうそう、そういう設定なんだよな!これは守り抜かないと!!
「うむ!なら勉強は必要だな!今日から文字の勉強をするぞ!」
(えええぇぇぇーーーー、、、まぁいいか走るより)
「はい!!お願いします!」
「よし、今日の勉強はそれぐらいでいいだろう!」
「わかりました!」
(ふぅ~~、知らない文字って覚えるの大変だな。でも覚えておかないと不便だろうから頑張るか!)
「じゃぁ、クールダウンで走るとするか!!」
行くぞ!!とギルさんに腕を引っ張られる。
「え、ええぇぇぇぇーーー!! 師匠それは朝と同じやつですか??」
「当たり前だ!!」
(ええぇぇぇーーー!それって俺の知ってるクールダウンじゃありませーーん!)
「...も、もう無理!」
俺は家の前で倒れる。するとまたギルさんが晩ご飯の準備をしていた。
また吐きそうになりながらもご飯を食べた俺は偉いと思う。
そして風呂がないので水浴びを済ませた俺は泥のように眠る。
「コラァー!!タクミ起きろー!!」
「い、嫌だぁーーーーーーーーー!!!!」
今日も昨日と同じく朝のギルさん曰くジョギングから始まり、文字の勉強、そしてギルさん曰くクールダウンで一日が終わる。
おれ、生きていけるのかな...????
少し短いですが、読んでくれれば嬉しいです!