はい、詰んだ。
「ふははははははは!よく来たな勇者よ!」
返事がない、ただのしかばねのようだ。
「ふははははははは!よく来たな勇者よ!」
返事がない、ただのしかばねのようだ。
「ふはははは・・・ねえ?返事は?」
「し、、、屍に変えてやるぜ、、、まおぉ・・・おえええええええええ!」
「てめえ、人の部屋でゲロってんじゃねえよ!?」
私が魔王となって早数百年。
今まで何百もの勇者が私に挑戦し楽しい拷問部屋へと送られていったが、今回の勇者たちは一味違った。
私の待ち構える部屋へと辿り着いたと思ったら全員が自分を無視して勝手やり始めやがったのだ。
パーティー編成はオジサンである私にはよく分からないが、今時流行ってるらしいいわゆるハーレムパーティーだった。
まあ、羨ましいかどうかは別としてとにかく変な奴らだった。
酔いつぶれて真っ青な顔でなければなかなかの美丈夫であろう今回の勇者はこの部屋に入るや否や青い顔をしてしゃがみこんだと思ったらいきなり啖呵きりながら嘔吐しやがるし
長身でかっこいい美人系の女戦士は部屋にそもそも入って来ないで挙動不審にキョロキョロしてるし
ちびっこい美少女魔法使いはものすごく疲れているのか息を切らしてるし・・・あ、倒れた。
ポンキュッポンの僧侶はゲロゲロな勇者を杖でつんつんして遊んでいる。
「てか何で吐いてんだよぉ、魔王の城に攻め込むなら万全の体調で来いよお・・・」
「最初は万全の状態で来たさ・・・じゃあなきゃ四天王倒してここまで来れねえよ・・・うぷっ」
勇者が掠れた声で反論する。
最悪なことに部屋の中一面にゲロと酒臭さが充満している。
私までもらってしまいそうだ。
てか、勇者が苦しんでいるというのに僧侶がニコニコしながら杖でずっとつんつんしてる。
・・・あれ?
魔王だからあんま光魔法はわかんないけどさあ、酒は一応毒扱いだから簡単な解毒魔法で治せるんじゃね?
「おい、僧侶!二日酔いだろコイツ!お前解毒魔法ぐらい掛けてやれよ!」
「嫌ですよ?」
「そうですか・・・じゃねえよおおおおおおおっ!」
「大きな声出さないでください、セクハラです。」
「・・・(だめだ、話が通じるタイプじゃない!)」
ニコニコしてるくせに言ってることはキツい御言葉ばかりである。
てかセクハラって何!?
確かに僧侶はいい体つきしてるけどオジサンそんなつもりで言ったわけじゃないよ!?
つか最近の若者は何か言うたびにやれセクハラだの、パワハラだのと言いやがって!
この前も文部大臣のサキュバスにお腹空いたねえって言ったらセクハラとか言いやがって!
オジサン、ブロークンハートだよ全く!
まあ?ちょっと期待したかどうかって話なら期待してたけどもさあ・・・
「ゆ、勇者殿!この部屋にはゲロしか無いようでござる!入っても大丈夫そうでござるよ!」
「ゲロしかねえってなんだよ!?こっちは舐められないように結構値の張る調度品揃えてんだぞゴラァ!」
「ぶおぅべええええ!」
「ちょっ!?吐きすぎで血が混じった代物を俺の胸像にぶちまけないでくれる!?」
戦士が目をつぶってプルプルしながらようやく一歩踏み入れた。
そしたらいきなりオジサンを睨みつけた来た。
なに!?オジサンまだ何もセクハラしてないよ!?
冤罪です!
あ、でも私の妻の内約半数はお仕置きと称して手を出して、ナカに出して、責任を取らざるをえなくなった元勇者や勇者パーティーだから・・・どうなんだろうね!
もしかしたら顔に出ちゃってたかなあ!?
ちょっとオジサン的にしどろもどろになっていたが、女戦士が話題にしたのは別のことだった。
「貴様ぁ!入り口に罠を何故設置しておかない!」
「冤ざ・・・寧ろそこですかぁ!?」
「普通魔王という者は入り口に光魔法が使えなくなる結界やら毒の沼地とか設置するもんだろうが!」
「それ四天王とか中盤のボスがすることであって、間違っても最終決戦の親玉がしていいことじゃないだろうが!」
「な!?じゃあ、入り口でいきなり触手出してくるとかそんな話は嘘だったのか!?触手出さないのか!?」
「てめえどこのエロ漫画から情報収集してきやがった!?」
オジサン古い考えだから出来る限り悪の親玉でいたいのよね。
そりゃあ入り口から罠とか仕掛けたら絶対オジサン勝っちゃうよ?
何だかんだで世界最強だしぃ?数百年生きてるしぃ?
でもさあ?違うんだよねぇ、それって!
むしろ苦戦の果てに手に入れたものっていうのがオジサン好きなわけよ?
最初は抵抗されまくってるけど、オジサンの数百年蓄えた知識と技術で『悔しい、、、感じちゃう』まで持って行って、最後は世界最強のイマジネーションで『しゅきい・・・だいしゅきでしゅう♡まおうしゃまあ♡』にまでするのが好きなわけよ、オジサンは!
そんなオジサンのハズきゃしい性癖暴露を聞いた女戦士は唾を吐き捨て一言。
「ぺっ!罠の一つも仕掛けないとは、、、駄目な魔王だなあ貴様は」
「理不尽だ!」
「そうですよお・・・寧ろ・・・感謝するところですよお・・・」
「お前もいい加減起き上れよ!」
「だってえ、、、魔力切れでぇ~浮遊魔法使えないからあ~この部屋まで来るのに25メートルも歩かされたんですよお?」
「テンプレ魔法使いか!?ドンだけ魔法特化なんだよ!?」
「まあ魔力切れかけなんで出来ることといえば解毒魔法一回ぐらいなんですけどね?役立たずでごめんなさいねえ・・・このくそ魔王が。」
「勇者!勇者にそれ使ってあげなよ!?二日酔いが苦しすぎて何かいろいろ撒き散らしながら部屋中転げまわってるしさあ!?」
「え?僧侶さんに脅されてるんで嫌です。」
「ぶおぅえええええええええ!?」
なんか腹黒いことを魔法少女が口走ってる気がしたがそんなのどうでもいい感じに場が乱れてきた。
勇者が白目向きながらマジか!?という目で僧侶を見る。
僧侶はにっこりと笑って言う。
「だって、、、苦しむところがみたかったんだもん。」
「ド、、、ドSだ・・・怖いよお、この人ぉ」
「だって昨日この人酔っぱらった勢いで無理矢理私にお酒飲ませたんだよ?しかも女戦士が止めに入らなかったら普通にベッドに押し倒すつもりだったんだよ?」
「勇者ぁ!?」
やばい、、、ただでさえゲロ吐くクソ野郎に成り下がっていた勇者が想像以上に下種だった。
まさか神聖な僧侶に手を出すとか何してんの!?
オジサンだって神様怖いからハーレムに僧侶入れてないぐらいなのに・・・うらやまけしからん!
二日酔いどころではなくなった勇者は首をふるふる振って私たちの追及の視線に抗議する。
「お、、、覚えてないです!」
「神の罰を受けよ!下種に降り注げ!『神雷空間』!!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「「「・・・・(僧侶こわい)」」」
部屋が黒焦げになった。
「はあ、、、はあ、、、殺ったかしら?」
「ま、、、まだだ・・・」
「『神雷空間』!!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
二度目・・・・
調度品が粉々に砕けた。
未来の妻・・・げふんげふん巻き込まれた二人が余波で死なないよう二人を庇って魔法シールドを張ってあげたがそれが軋んでいる。
世界最強の魔王の盾が軋むほどの攻撃が勇者に注がれているとか・・・
てかそれいわゆる奥の手じゃないですか?
「はあ、、、はあ、、、全魔力と引き換えでしたが、、、復讐完了・・・」
「まだ・・・」
「・・・(にこり)」
「あっ」
「『神雷空間』!!」
「覚えてます!実は覚えてますからぁ!酒のせいだったからとか言い逃れしようとか考えてたわけじゃないんだよ本当に!酔いが覚めかけな今になって神様怖くなったとかこれっぽっちも考えてないから!ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「私の全てをかける!『豪魔!必滅!閃劇の!金的集中!神撃の・・・」
「やめえい!『カースド・マジック』!」
間違いなくオジサンのマイホーム(城)を吹っ飛ばすであろうものを撃ち出す前に僧侶に魔力封じの呪いをかけた。
正直戦いどころじゃない・・・
掃除で疲れた体を玉座にようやく沈める。
生き残っていた部下たちに椅子を四脚用意させそこに勇者パーティを座らせる。
殺すのは簡単だ・・・だがなぜこんなふざけた状態なのか気にもなっていたからだ。
今まで様々な勇者パーティーを見てきたが
黒焦げ吐瀉物まみれの下種野郎 HP10/806 MP0/478 (毒状態?)
魔力枯渇でヘロヘロだが満足そうなドS野郎 HP100/725 MP100/640(魔王に魔封をかけられている。魔王が『死ぬ』か『呪いを解く』まで一生魔法を使えない)
なんかすんげえくつろいでいるちんまい美少女魔術師 HP41/41 MP4/726
未だにオジサンがわなを仕掛けて来るんじゃないかとキョロキョロしている挙動不審 HP41/781 MP4/55
・・・・・・・・・・ここまで詰んだ状態でのこのこやって来たバカどもは初めてだ。
「てかそもそも何でこんなにHPもMPも枯渇してるの・・・一応回復の泉が入り口近くにあったでしょう?」
「罠に決まってる!・・・と戦士が使わせてくれなかった」
「オジサンのフェアプレイ精神を何だと思っていやがる!?」
四天王倒すぐらい強いなら運動不足の自分にいい刺激をくれるだろうと万全の状態で挑めるようにとせっかく作った回復の泉をぉ!
HPだけじゃなくMPまで回復させるってんで作るのにすんごいお金かかってるんだからね!
オジサン激おこぷんぷん丸だよとか考えていたら女戦士がだって・・・と唇をとがらせた。
「だって怪しかったじゃないか。この聖なる泉に入るには特製の水浴び服を着なさいとか・・・」
「ああ、あれね。あのまるっきりスケベ親父が作りましたみたいなセンスのかけらもないビキニでしょ?あれは無かったよねえ」
「胸の大きい人用のしかないから私も着れなかったし。ドンだけ巨乳好きなんだって話だよね?もしかして作った人マザコン?」
「、、、、(返事がない、ただのしかばねのようだ)」
「・・・グハッ!」
若い女の子たち+しかばねの屈託のない、しかしとてつもない破壊力の口撃にオジサンの脚はガクガクである。
しょうがないじゃん!おっぱい大きい子好きなんだから!
露出度高めなの当たり前じゃん!覗くためなんだから!
MPまで回復させる泉の制作費の何十倍の出費を出して巧妙な魔王NOZOKIシステムを完成させたと思ってるの!?
まだローン残ってるんだからね!
「はあ、、、回復の泉の件は分かったけども・・・普通回復アイテムぐらい持ち歩くでしょ?」
ポーションに精霊の秘薬。
魔王の城までたどり着くぐらいの勇者なら荷物パンパンになるぐらいの量持ち歩いてるはずだろう?
しかし魔法少女は首を振る
「僧侶さんが全部売っちゃいました。」
「僧侶ぉ!何に使ったの!?」
「訴訟費用・・・」
「あ、ごめん。」
空気がすごくおもい・・・
そういうことに詳しい文部科学大臣のサキュバスに頼んでカウンセリングしてもらいたいところだが頼んだらセクハラですとか言われそうだしなあ。
「あ、あれだよ・・・時が解決するって」
「飲酒の罪は消えません」
「「あ~あ、泣~かした。」」
「え!?オジサン魔王なのに女の子泣かせたぐらいで凄く非難の眼で見られてる!?」
「てか、デリカシーないですよね?今まで女の子は性技で満足させてればいいとか考えてませんでした?」
「・・・(ぎくっ)」
「そういうとこがデリカシーないんですよ」
処女のくせに(魔法で調べた)偉そうな口利きやがって・・・胸ないくせに。
「そういうところがデリカシーないんですよ。」
「え?口に出てた?」
「露骨な視線で分かります。」
「ご、、、、ごめんなさい。お~いサキュバスた~ん!」
「・・・なんです?今仕事中なんですけど。あと変な呼び方やめてください。」
「「「・・・・(召喚魔法を無詠唱!?)」」」
もう限界だったので腹心であるサキュバスを召喚する。
監視魔法で部屋で仕事してるだけだったのは分かっていたので強制的に召喚した。
彼女に半ば土下座しながら頼み込むことにする
「おれじゃあコイツら捌き切れねえよお!僧侶だけでも面倒見てくれよお!サキュバスたんは性的なことは十八番だろお?」
「不快です、死にますか?あと変な呼び方やめてください。」
「バスた~ん、別に勇者攻めてきてるこの一大事でも普通に通常業務してたり、オジサンの部屋まで勇者が来たとかオジサンが危ないとか情報が入った瞬間ちょっとガッツポーズしてたこととかは忘れてあげるからさ~」
「はあ、、、分かりましたよ。あと次バスたんって呼んだら永遠に覚めない悪夢を見せますからね?」
「助かるぅ~~~~」
指を一度鳴らして椅子をもう一つ作りだしサキュバスを座らせる。
上級魔族であるサキュバスを見るのは初めてなのか、三人としかばねは彼女をじいっと見つめている。
てか、オジサンの時より畏怖の念が強くないかな?
いや、間違いなく強いね!
初対面だからってあんな出会いしたせいで忘れてるかもしれないけど、、、オジサン一応世界最強なんだから!
オジサンがちょっと拗ねてる僅かな間に大体の内容をサキュバスは把握してくれた。
いやあ、優秀な部下がいて魔王は幸せだよ、全く(-_-メ)
「まあ、大体の話は分かりました・・・すんごいおかしな状況になってますね。」
「そうだよねえ!オジサン全然悪くないよねえ!」
「いえ、そもそも陛下が回復の泉にあんな妙な立札をたてたのが問題かと」
「変態・・・」
「やはり魔王の罠だったか・・・」
「マザコン」
「、、、(返事がないただのしかばねのようだ)」
「サキュバス、、、貴様裏切ったなあ!」
女の子三人としかばねのキッツい視線を受けてオジサンは涙目だよ、全く!
サキュバスめえ、、、いつかその反抗的な態度をひいひい言う雌豚に変えてやるぜ!
「目線が不快です。死んでください。セクハラです。」
「て、、、的確に俺の急所を抉って来やがった・・・」
文官として雇ったはずなのだが彼女はオジサンでも悶絶するぐらいのケリを座りながら脛に叩きこんできた。
ちくしょう、いい蹴りだ・・・いやいや!この状況が続くのはまずいよ!?
渋カッコいい叔父様魔王がただのエロ親父になってしまう!
ここは話を逸らさねば!
「てか、そもそもなんで酒飲むことになったの!?勇者のグロッキーさ尋常じゃないよね!?とても次の日魔王と闘うって飲んだ前日の酒の量じゃないよね!?」
「決戦の前日だったんですよ・・・」
「いや、気持ちは分かるけどこの勇者君そもそも未成年でしょ?オジサンどうかと思うなあお酒飲むのも、大事な日の前に量のセーブしないのも」
お酒は飲んでも吞まれるな。
オジサンそういうの大事だと思うのね、うん。
サキュバスのジトっとした視線は無視しておく。
「陛下、一昨日のことなんですが」
「き~こ~え~な~い~!!さ~きゅばすたんが何言ってるかわ~か~ん~な~い~!!!」
「ちっ、都合の良いことばっか言って・・・これだからオヤジは」
サキュバスがマジで怒ってらっしゃるので、話を元に戻す。
てか文官のくせに魔力の高ぶりが武官よりも強いんですけど・・・?
オジサン世界最強なのになんかヤバい雰囲気がするよう・・・
「まあ、とにかく!お酒をたくさん飲んでいいのは女性を押し倒すときだけなのよね、オジサン的に。」
「ゲ、、、魔王さん。いろいろ事情があるんですよ」
「今下種野郎って言おうとした!? まあ、事情があるなら聞くけどさあ」
「悲しい事件があったんです・・・」
悲しい・・・事件?
魔法少女が重い口を開いた。
「魔王さんはこの世界でも最強ですから挑むには物凄い覚悟が要ります。明日が自分にとって最後であるというほどの覚悟が。」
「まあ、、、そうだねえ。」
オジサン的には自覚はあまりないんだけど、一応世界最強の存在なんだよねえ。
オジサンがいるから人間より数が少ない魔族たちが人間より優位にあるぐらい・・・ね。
それでも人間ってのはバカだから毎年勇者パーティーという名の暗殺を差し向けて来る。
「でもさあ、寧ろそんな時に酒飲み過ぎるとかどうなの?」
「ヤケ酒なんですよ」
「・・・あ?」
「この黒焦げ勇者さん実は童貞らしくて、死ぬ前に捨てておきたいとかいって色町に行ったんですよ。」
「何か状況読めてきたなあ・・・大事な時にタタナクテ馬鹿にされたとか?」
「短小だと・・・」
「うわあ・・・商売でやってるはずのお姉さんが思わず口走るほどかあ・・・」
ヤケ酒したくもなるだろう。
今は黒焦げで面影無いが温室育ちみたいだし、、、同年代の子と比べたこともないいんだろうなあ。
オジサンよくないと思うよ?
同年代の子との触れ合いがあまりないのは。
まあ、オジサンは飲み友達沢山いるしそもそも『無理よ!そんな大きいのはいるわけない・・・アアッ!?』とか言われることが多いから勇者君のショックを分かりあうことは出来ないけどさあ
ヤケ酒はねえ・・・未成年のくせにヤケ酒するのは良くないなあ。
「まあ、酔って見せつけてきたのは本当に粗末でしたけどね。」
「で、笑われて飲み過ぎたのかあ・・・魔法使いちゃん結構エグイ事するねえ」
てか勇者君静かだなあ。
こんな恥ずかしいこと話されてたらオジサンだったら泣き喚いて否定するのに・・・あれ?
「勇者君・・・HP0なんだけど。」
「あ、本当ですね」
「「「!?」」」
オジサンとサキュバスがあららといった瞬間勇者パーティーが慌てて勇者に駆け寄る。
「た、、、、魂抜けちゃってる・・・蘇生魔法じゃもう手遅れだよ」
「あっちゃあ・・・やっぱりアレがまずかったのかなあ」
「アレ?どういう事?」
僧侶が手遅れといった瞬間、魔法使いが手で顔を覆った。
「もともと二日酔いとはいってもそこまでじゃあなかったんですよ。実際四天王倒してここまで来てるんですから。」
「うんうん」
「でも流石に魔王さんがいるこの部屋に来るころにはみんなボロボロで魔力もほぼゼロでした。」
「で、、、そんな時に限って回復アイテム売っぱらってたことが判明したのか」
「それだけならいいんですけど勇者さんが止めるのも聞かず僧侶から強引に奪った薬を飲んじゃって・・・それは僧侶が最後の手段として懐にしのばせる魔力全快アイテムの魔法の聖水だったんです。」
「・・・?なんでそれでこんな状態に?」
「神官や僧侶が酒を飲んではいけないというのは宗教上の理由だけじゃなく実用的な面もありまして、魔法の聖水と酒を一緒に摂取すると・・・」
「すると?」
「死ぬほどつらい嘔吐を伴う食あたりになります」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?なに?
間接的な攻撃でライフの9割削られてたけど直接的な死因は食あたり!?
「え、何それかっこ悪ッ!?」
「おのれ魔王め!陰湿な罠を!すべてはお前が裏からあやつっていたのだな!」
「いやいやいや!いくらなんでもそこまで予想できるほど賢くねえよオジサン!てか直接手に掛けた方が早いし!」
「・・・少しは頭も使うべきですよ」
「サキュバスたん、うるさい!もう仕事に戻って!」
「帰らせてもらいますよ、全く・・・後その呼び方やめてください。」
サキュバスたんが俺を一睨みしてから出ていった。
あ、勇者ドウシヨウ・・・帰る前に持ってってもらえばよかったなあ・・・
「君たち、もう勇者死んじゃったみたいだし帰っていいよ?本当ならオジサンの性奴・・・ゲフンゲフン!本当ならオジサンの奥さんになるか死かを選ばせるけどなんかいろいろ拍子抜けで萎えちゃったしもう帰っていいよ?」
「どこに帰ればいいんです?」
「・・・僧侶ちゃん?」
「魔王も倒さず、守るべき勇者も死んで・・・のこのこ帰れと?」
「間違いなく殺されるよね?あ~あ~せめて戦って死にたかったなあ・・・こんな残念な気持ちのまま死ぬのかあ」
「戦士なら最後は潔く散るさ・・・ほら二人とも首を出せ。私が介錯してやる。」
「ちょ、待った~~~~!!!『カースド・スラッシュ』!!」
「・・・どうした魔王?」
「なに普通にここで死のうとしてるの!?オジサンの部屋やっとゲロから解放されたのに次は血だらけにする気!?止めて、土下座でもなんでもするからあ!」
「まったく・・・そもそも魔王といえば残虐非道な魔物を人間界にばらまく存在と教えられてきたんだがなあ。」
戦士がため息をついて錆びてしまった剣を放り出す。
普通に首を切られるつもりで首を戦士に差し出していた僧侶と魔法使いがものっそいめんどくさそうな顔でオジサンを見てくる
「なんですか魔王さん?こういうのは一度決心が鈍ればなかなか死ねないんですから。」
「いや死ななくていいから!帰っていいって言ってんでしょお!」
「「「はああ・・・・」」」
「なにその分かってねえなあみたいな溜め息!?」
魔法使いが本当にわかってないなあとあきれ顔でオジサンに詰め寄ってくる。
「私たちがこのまま外に出たら勇者を見捨てて逃げ出したとして処刑しかないの!ここで死ぬしかないんだよ!」
「・・・じゃあ、妾になる?」
「死ね」
「変態」
「ロリコン」
「ここまではっきり断られると傷つくわあ・・・オジサン意外とナイーブなのよね~」
えっとつまり、、、勇者が死んでしまった今勇者パーティーの三人は選択肢がほぼ残されてないのか。
闘う力も気力も残ってないんだから
ここで故郷の家族や自分の名誉を守る為自決するか、帰って勇者を見捨てたとして処刑されるかを選ぶしかないと・・・
『勇者がいないから』ねえ・・・
「ねえ魔王さん。少しでも私たちを可哀想と思うなら自決させて?魔王に殺された魂は天国に行けないんでしょ?だったら怖くないように自分で死にたいな。」
こんな成人もしてない女の子たちがこんなに簡単に死を選ぶとは・・・
呪いで自殺しないようにも出来るけど、、、それでもこの子たちは生きる気力を失くすだろうなあ。
-優しい『待』王様、ありがとうございます。そしてさようなら。-
何でだろうなあ
かつて自分の国の為にオジサンに嫁入りして、自分の国の為に死んでしまったあの娘のことを思い出してしまった。
あの娘が少しでも自分を大切にできたら、、、少しでも自分を大切に思えるようにしてあげていれば、、、あんな未来は起こらなかったかもしれない。
いつもだったら容赦なく制裁を加えていただろう
戦いの最後で自決しようとしても遠慮なく気に入ったのは妾にでもして、気に入らないのはメイドにでも使用人にでもしたかもしれない。
戦いさえ間に入っていればオジサンは魔王として容赦なく処断を加えたかもしれない・・・
でも、、、彼女達とはまだ戦ってないから、、、少しだけ待王として甘い選択肢をあげられるかもしれない。
戦士ちゃん僧侶ちゃん魔法使いちゃんの三人に試しに聞いてみることにする。
「ねえ」
「なんですか?」
「もし勇者が生きてたら・・・君たちにはどんな選択肢がある?」
「死ぬ前にもしもですか?いい加減にしてくださいよお」
「これが聞ければ好きにしていいから・・・な?」
「魔王さんはしょうがないな・・・そうだね。もう戦う力が少しも残ってないから撤退かなあ?」
「四天王は倒したんだし帰っても処刑は免れられるんじゃないか?」
「そこまで国も甘くないです。せめて魔王を殺さなければ何故帰って来たとやっぱり処刑ですよ。」
「じゃあ駄目だ・・・近くにいるとやっぱりわかるもん。人間最強の私たちが仮に万全だとしても魔王さんには勝てないよ」
・・・三人が『もし』の話で盛り上がる。
故郷のこと、家族のこと、もらえる褒章のこと。
決して有り得るはずない未来なのにそれを思い描く三人の笑顔はとても輝いていた。
とても彼女を彷彿とさせる美しい笑みだった。
「つまり、、、『勇者が生きてて』『魔王が死ねば』君たちは助かると?」
「「「はあ・・・」」」
「いやいや、もうその分かってねえなあみたいな視線やため息はいいから!真面目な話だよ!」
「真面目って・・・何?勇者蘇らせたりできるの?世界最高峰の治癒術を使える僧侶でも駄目だったんだよ?」
「いいや出来ない。魂を呼び戻すなんてどんな世界最高の術師でも無理だ。」
「ふざけてるならさっさと死なせてくれ・・・それともそれこそが魔王のやり口か?じわじわ苛めて死への恐怖でいっぱいにさせる気か?」
「魔王のやり口?いいや待王のやり口だ。」
「・・・読み方云々の議論はもういいよ。さっさと・・・勇者!?」
「「!?」」
『変身魔法≪メタモルフォーゼ≫』
千変万化の自分の身に許された特殊技法。
この力は他のどの変身魔法にもあるような制限は存在しない。
『世界最強』にだって『世界最高の治癒術師』だって『今代の勇者』にだって変身することが出来る。
「さあ、魔王は『死んだことになるから』この城を出れるよね?」
「・・・ちょっと意味が分からないんだけど」
「勇者は死んでなかったことにするんだよ。幸運なことにサキュバスとここにいる四人しか知らないことなんだし」
「魔王のくせに、、、何でそんなことを、、、私たちは敵なのに、、、」
「別に君たちの為じゃない、、、これは自分の為なんだから」
もし勇者が娼館になんぞ行かなかったら
もし僧侶が回復道具を全て売りさばかなかったら
もし魔法使いが少しは体を鍛えていたら
もし戦士が魔王の罠だ罠だと疑心暗鬼に叫んでいなかったら
この詰んだ状況は無かったはずだ
でもそのおかげで戦いは生まれず、、、少女たちの命は生きながらえた。
もし魔王があの時魔王であって待王でなかったら
もし優しいおじさんじゃなかったら
もし千変万化の王でなければ
もし
もし
もし
いくつもの『もし』が積み重なり
彼女達は生きながらえた。
そしてたった今世界は新たな選択肢を選ばされた。
「ま、、、勇者さん!一応なんですが婚約者の名前覚えてますか?」
「え?シェイクリウッド・コーネリアスだっけ?」
「それは国王陛下の名前だよう!なんで男と結婚するの!?その娘のお姫様だよ!」
「ごめんねえ、オジサ、ゲフンゲフン!!ユウシャサンは最近歳のせいか記憶が曖昧でねえ」
「勇者はそんな口ぶりではなかった!てかこの国の姫の名前も知らないとか不敬罪だぞ!・・・まさか実は勇者じゃないことをばらして私たちが絶望する表情を見るのが目的か!?やっぱり罠だったか!」
「違うって・・・第一声大きいよ。」
礼服に身を包んだ四人が王の間の門の前でこそこそ話し合っている。
今日は王に戦勝報告をする日。
ついでに言うと勇者と姫の婚約を発表する日でもあったりする。
婚約者の名前すら知らない勇者と共犯者3名。
・・・王の前でバレでもしたら即座に処刑である
運命とでもいうのだろうか
また詰んだ状況に身を置かれた勇者パーティーは今日もまた嘘を重ねるのであった。
嘘が正しいかどうかなんてそんなことを論じるつもりはないが、、、今彼らは笑っている。
馬鹿馬鹿しくて飛び切り奇妙な状況と解決策として見出した『嘘』
『あ、詰んだ』
そんな状況からこうなるなんて誰が思う?
てか、こんなに面白いことばかり起きるんなら嘘ついてもダサくたってもさあ、生きてさえいりゃあいいんじゃないの?
『自分を大事に出来ればいつかそんな時が来るんじゃないの?』
待王が伝えたかった彼女と伝えられるかもしれない彼女達へのその想い
いつかその想い『キチンと』伝わりますように
「おえええええええええええええっ!」
「「「なにしてる!?」」」
「え?ユウシャサンって初っ端ゲロるんじゃ?」
「死にますか?」
「死ぬ?」
「やはり罠か!!!」
間違って解釈されることなく伝えられますように・・・