夜空の花
2人の男が、同じ娘に恋をした。
そのことに、2人の男はお互い勘付いていた。2人はお互いを意識しながらも、娘に想いを伝えることを出来ずにいた。
2人の男は職人だった。職業は、花火師である。2人ともいかにも職人というたたずまいで、女子供に興味はないといった様子であった。しかし、内心は2人とも1人の娘に夢中であった。
片方の男が娘に声をかけると、負けじともう片方も声をかける。明らかにお互いを意識していた。娘は本当に優しい子で、そんな2人をどちらも大切に想っていた。どちらにも優しかった。
相手に先に告白などされたらどうしよう、といつも2人は考えていた。でも、2人とも出来なかった。職人気質な性格だからなのか、2人は好きということを言葉にすることは照れくさくて出来なかった。直接言えないのであれば、手紙でも書けばいいのだが、それすらもどうしても出来なかった。このままでは、どちらも想いを伝えられずに終わるのではないか、という雰囲気であった。
ある日、娘がこう言った。
「私、実は花火を見たことがないの。」
その娘は遠い地方から引っ越してきた子で、花火を今まで見たことが無かった。そうなると、花火師の2人は黙ってはいなかった。
片方の男が、もう片方の男に言った。
「今月末の土曜の夜に、花火大会を企画しよう。花火を見たことがないあの子のために、綺麗なドでかい花火を作るんだ。おれらは花火師。花火師なら花火師らしく、自分の気持ちは花火にのせて届けようじゃねえか。」
「どちらが綺麗な花火を見せてやれるか競争ということだな。面白い。」
こうして、2人の争いは始まった。2人は、花火大会の当日まで、花火作りに専念した。彼女のためを想い、食事や睡眠は最低限で、残りの時間はすべて花火作りに費やした。そんな努力を知らない彼女は、ただ純粋に花火大会を楽しみにしていた。
そして、花火大会当日。いよいよ2人の打ち上げのとき。2人は自分の作った花火を、一斉に打ち上げ始めた。
ヒュー……ドン!ドン!
見たこともない大きな花火に、彼女はすごく喜んでいた。
「すごい!すごい!まるで、夜空に大きな花がたくさん咲いているみたい!」
彼女は今までにない笑顔を見せていた。
しかし、打ち上げをしている花火師の2人からは、彼女の笑顔は遠くて見えない。けれども、2人はそれを残念には思わない。
「この花火は、彼女へ向けた花束だ。ちゃんと彼女へ届いたかな。」
「ああ、きっと届いているとも。」
2人の花火師は、どちらも見返りを求めない。競争だなんて言ってはいたが、本当はそんなこと、どうでも良かったのだ。自分達の打ち上げる花火で彼女が笑ってくれればそれでいい。例え、それが見られなくても。
――2人の男が、同じ娘に恋をした。
好きと言えない花火師が
届けと願う 夜空の花