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海賊少年と囚われの王子  作者: 蒼川 恵
東門の塔
3/15

幻想旅団の日常

そろそろ客席の整備と舞台そでに大道具の準備しとけよー。」

「了解。」

「衣装係準備完了しました。」

さまざまな声が飛び交い皆が慌ただしく動いている。旅をするように各地を回り公演を行っている幻想旅団のテントでのいつもの日常だ。

 がっしりとした大柄の男や、すらりとした長身の女性団員がせわしなく動き回っている中にただ一人、少年の姿があった。

 年のころは十四、五だろうか。赤い髪に右目には黒い眼帯を付け、首にはドクロが描かれた巻き物をしてまるで海賊のような風貌だ。

 その少年はちょうど小道具の準備を終え、一息ついた頃だった。

「おーい、クレド!道具の準備は終わったの

かい?」

 海賊のような格好の少年、クレドは自分でも気づかぬうちに不満気な顔をしていた。

 小道具倉庫と化している第7テント、通称赤テントにデカいおばはん声を響かせながら団長が入ってきたからだ。

 嫌な予感がする。買出しに行かされるのかな、時間的に。

「おー、終わってるみたいだね。じゃ、これで夕飯の買出しよろしく。」

 そう言って座長は一座の買い物専用サイフを取り出した。

 どんぴしゃ。やっぱりな。

「団長、いつも思うんだけどさ買出しに一人はちょっと。せめて荷物もちにあと一人!」

「何、甘えてんだ。そんなヒマ人この中にいるか。ほら、さっさと行った行った。」

 やっぱしダメか…。

 予想通りといえば予想通り、団長にサイフを放り投げられ50人分の夕飯の買出しに行くことになった。

 嫌々ながらも市場へ向かい歩き出した。

 今回は一体どれほど買うものあるのだろうか。運が良ければ片手で楽々持てるほどしかないのだがそんな事は稀だ。

 恐る恐るサイフに入っている買い物メモを取り出して見てみるとクレドは買う前からげっそりしてきた。

   ~とりあえず買ってくるもの~

○じゃがいも  50個

○たまねぎ   30個

○にんじん   25本

○肉      7日分

○米      5袋


 米がなければ楽なのだが買い置きがなくなったらしく今日は米もしっかり買い物リストに入っている。この量だと3往復はしなくてはいけないだろう。それに加えて、公演場所から市場までが遠いのだ。今、公演にきているクレメンティアは発展5大都市のひとつということもあってにぎやかな街なのだが、公演用テントを張る広い場所があまりない。

 秋の収穫祭も重なって他のサーカス団やら演劇集団も多く集まっている。そのためこの時期市場に近い公演場所はあっという間にうまってしまうのだ。

 今回幻想旅団は運悪く一番外れの公演場所になってしまった。住宅街を抜け、クレメンティアの所有地である東の離塔を越えるとようやく市場が見えてくるのだ。

 しばらく歩いていると市場への道のりの最後の目印である離塔前にさしかかった。

 市場まであと少しだ。

 クレドが足早に進みながら塔を眺めていると最上階の窓でぼんやりと外を眺めている少年が目に入った。年はクレドと同じくらいだろうか。

 国が所有する建物の中にいるのだから王家に関係のある子どもに違いはないのだろうが、その表情はどこか暗い雰囲気があった。

 何というか覇気が無いのだ。

「食うのに困らない生活してるってのに、あんなカオしてる奴っているんだな。」

 十分な金があるって事は必ずしも幸せとは結びつかない。自分たちの公演を見て満足してくれたお客さんの笑顔が見られる事が一番の幸せだ!そう言って座長は食事が質素なとき皆を丸め込むのだが、クレドは少し分かったような気がした。

 ぼんやりとそんなことを考えながら市場が見えてくるとクレドは気にせず走り出した。

 目の前に目的地が見えているのに歩くのがもどかしかったのだ。

 市場にやって来るといつものように買い物メモを広げ、歩きにくい人込みを掻き分けるように進んでいく。

 クレメンティア城のお膝元である市場はとにかく人が多く、いつ来ても賑わいを見せている。こう言うと聞こえはいいが実際は歩きにくいことこの上ない。

 せっかちなクレドはたまに目の前をとろとろ歩く者を蹴飛ばしたくなる。

 だが同時に市場は興味深いものの宝庫だった。買出しで来たわけでなかったらじっくり見てみたい場所はたくさんあったが、そうもいかない。

 さっさと買い物を済ませるとクレドは足早に来た道、住宅街への街道を目指した。

 予想通り米の重量は半端じゃなく重い。人にぶつかり、ぶつかられ、よろけながらもしっかりと荷物抱え歩いていく。

 が、それも長くは続かない。

「だあぁっ重いー。」

 やっとの思いで街道にたどり着くとついに食材の入った袋を道のど真ん中に降ろした。混雑した市場を抜けなければ一休みすることも出来なかったので人通りの少ない離塔前まで辛抱してきたのだ。

 邪魔にならないよう道の脇の芝生まで荷物を移動させるとクレドは腰を下ろした。

「少しなら休んでいってもいいよな。」

 陽は落ちはじめ空は橙色に染まりつつある。

この様子だと明日も晴れそうだ。明日は祝日にあたるらしいので客足も伸びるかもしれない。

 心地良い風を頬に感じながらぼんやりあたりを眺めていると、その視界に離塔が映った。

 そのときクレドは思わず立ち上がった。

 離塔最上階の窓には昼間に見た少年がそっくりそのまま外を眺めていたからだ。

「あいつ…ずっとああしてたワケじゃないよな。」

 その表情は先ほどと変わらず冴えない感じだ。

 病気でもしているんだろうか?

 少し疑問を抱きながらクレドは帰路へついた。


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