二人の秘密
ちょっと遅くなったかな?
クレドはこっそり幻想旅団の大馬車、団員が家と呼ぶ馬車のひとつに近づく。
五号馬車の中、5-2と書かれたドア。それがクレドの部屋だ。音を立てないようにドアを開けると素早くベッドに潜り込んだ。どうやら抜け出したのはバレていないようだ。
もし団長にみつかったらどう言い訳するか困っていたのだ。
団長から支給されたお金はまだある。明日は何かおいしい物を買って持っていこう。
一日中歩き回って疲れているはずなのに眠気はまだやって来ない。それどころか明日どんなことをしようか?どんな話をしようか?考えるだけで楽しくて、じっとしているのがやっとという感じだ。なにせ初めてできた友達なのだから当然といえば当然かもしれない。
ぐっと、心が騒ぐのを抑えながらクレドはいつしか眠りに落ちていた。
◇◇◇
「キーラ様朝食をお持ちしました。」
離塔のキーラの朝は、世話係のワズリーが朝食を持ってくるのとともに起こされることから始まる。このところ夜型になってしまっていて起こされても起きられない日が続いていたが今日は少し事情が違ってしまっていた。
「おはようワズリー。今日はなんだか雨が降りそうな空だね。」
「キーラ様、今日はお早いのですね。珍しくスープが温かいうちに召し上がっていただけますね。」
そう言って嬉しそうにワズリーは手際よく朝食をテーブルに並べていく。
実は昨日から寝ていない、といううよりも寝られなかったのだがそんなことワズリーに言えるわけがない。どうして?と聞かれたら答えようがない。嬉しくて寝られなかったなんて。
「あのさ、ワズリー。今日三階の調理場使ってもいいかな?」
「もちろん。昼食と夕食を作る時間以外なら大丈夫ですよ。」
「よかった。ヴィルが持って来てくれた本の中にパイの作り方が載ってるのがあったから。見てたら食べたくなっちゃって。」
「作用でございますか。しかし、キーラ様自らでなくとも調理場の者に作らせることも出来ますが?」
キーラは首を振る。
「ううん、いいんだ。自分で実際に作ってみたいから。」
「そうですか。では調理場を使えるように皆に伝えてまいります。」
そう言って部屋を後にし、調理場にへの階段を下りるワズリーは笑顔だった。
キーラの子どもらしい、楽しそうな表情を見たのは久しぶりだったからだ。




