第3話
6月30日の木曜日だ。
今日はSUMMER CAMP出発前最後の事前学習だ。
先生から今回の真の目的がうっすら説明された。
「明日からSUMMER CAMPが始まります。そこで皆さんに1つ疑問が残ると思います。なぜ中3の大事な夏休みに海外にキャンプに行くのかと思っていると思います。その理由はキャンプ終了時に分かることと思います。というか、全員無事に帰国し、このように集まったらお話します。この理由がなんなのか考えながらキャンプするのもいいかもしれないですね。」
意味深な発言を残して治田先生は会議室を出た。これではなしは終了だという意味だ。僕たちの頭の上には「?」がたくさん浮かんでいたと思う。
ちらっと隣に座っている遥香をみる。
アイコンタクトで「話すならもう少し話せ!」という意思交換をした。
これじゃなかなか噛み切れないホルモンのようだと一人で突っ込みを入れた。
その後、教室に帰って4人で話をした。
「どういうことなんだろうな……」健斗がぼそっとつぶやく。
「全く見当つかないわ。」
「同感だ。」
僕は北山さんの意見に同意した。しかしここでも1人全く違う人がいた。
「もしかして、ここって中高一貫なのかな?……なんちゃって」
遥香が人差し指を立てていった。遥香の説明は意外にしっかりしていた。
確かにそういわれればそうなのかもしれない。中学入学前に「クラス編成テスト」と呼ばれるものがあった。ちょうど私立中学校の入学試験の時期に実施された。
しかし、僕らには合格通知や不合格通知の類は全く届かなかった。
そのほかにも理由があるようだがこのことが1番しっかり筋が通っていた。
「確かにそれもそうだよなぁ。つーかこの学校内に高校なんてないし。どこか別の場所にでもあるのか?」
「最悪の場合、キャンプから帰ってきたら勉強漬けの日々を過ごしたり……」
「遥香、今それを冗談でも言われたら……ちょっと……」
「あぁ、ごめんなさい。」
遥香が謝って一時の沈黙が流れた。不意に口を開いたのは健斗だった。
「仲西はそういうところがあるもんなぁ。」
「「ん?」」
2人同時に返事をした。苗字で呼ばれるとどっちをよんでいるのか分からなくなってしまう。
「あぁ、遥香ちゃんのほうね。遥香ちゃんのほう。」
それに遥香は少し腹を立てた。
「もう、苗字で呼ばないでよ。2人とも一緒なんだから。」
「でも、つい苗字で呼んじゃうんだよね。最近2人が一緒にいることってあんまりないじゃん。だからくせがついちゃって……」
頭をかきながら必死に弁解している健斗。
「じゃ、呼び方を決めましょう。ごっちゃにならないように。」
このとき北山さんのもう一つのいいところを見つけた。それはいかなるときも冷静に物事を判断できるというところだ。キャンプでは班長以上の働きをしてくれそうだ。
「んじゃ、俺は普通に健斗でいいよ。」
「私は、う~~ん……遥香でいいや。」
「僕もそのまま宇宙で。北山さんは?」
「みなさんの呼びやすい言い方でお願いします。」
にっこりとわらった顔で答えられちゃ、少しはドキッとするだろうよ。遥香には若干気づかれているが。
「じゃ、俺からは北山で。」
「私は桜咲ちゃんって呼ぶね。」
「僕は北山さんで。」
それぞれ北山さんの呼び方が決まっていった。
「私はまだみなさんと距離がありそうなので、くん付け、ちゃん付けで呼ばせてください。」
「了解。」
「わかったわ。」
「おっけー」
呼び名を決めたところでまたさらに距離が縮まったように感じた。
「じゃ、明日からよろしくお願いします。じゃーねー。」
「バイバーイ!」
その日は明日に備えて早く帰って遥香とともに9時にはベッドに入った。