philter
独占欲が強いとか、好きすぎるとか、ホント、ダサい。
あなただけしか見えないなんて。
他の人を見ないでなんて。
私は彼の服のボタンに手をかけた。
いっそ嫌いになれたらいいのに。
だけど薄く纏った布の向こうの、トクトク音を立てる鼓動は安心する。
「何考えてんの?」
見透かすような目つき。
だけど私の本心は鉄で覆う。
「何にも」
強い、面倒くさくない女を演じた。
それが正解なのか未だに分からないけれど。
トン、と押されて背面からダイブ。
胸元、少し開けてキスされる。
「……甘」
"媚薬"と謳われたボディーミスト。
香水よりほんのりキツくない。
これで貴方は虜になる?
「好き」
耳元で優しく囁かれる。
「私も、好き」
抱いてくれるだけマシ?
貴方にしがみつきながら考える。
盗み見た顔は、恥ずかしいくらい優しかった。
傍にいるためなら何でも。
今までそう思ってきた。
それと同時に、そう思う自分が馬鹿らしくて。
密着した愛しい体温を共有する。
ボディーミストの匂いは二人から香る。
酔えない現実が憎らしい。
貴方越しに見えた外の光は仄かに。
少しずつ終わりを見せられた気がした。
「もう、やめたい」
私の言葉に驚く貴方。
まるで本気の恋でもしてたみたいな。
そんな考え、きっと私だけだけど。
何で?と優しく聞く顔に竦んだ。
恋愛ごっこなんて私には合わない。
そう、だから。
「愛し合ってるフリとか、疲れた」
溜め息で甘い匂いが流される。
「好きじゃないの?」
「純粋じゃない恋愛なんて、まっぴら」
散々、と怒られそうな台詞。
だけど弱味は今更見せたくない。
「馬鹿だなあ」
泣きそうな笑顔で頭を撫でた。
貴方はよく分からない。
「じゃあ純粋じゃない恋はやめようか」
しってる。
「今日だけ、こうしていさせて」
何人も知り合いの女は居た。
何人も告白して破れた。
何人も切られた。
偶々私は勝ち残っただけ。
そして心理戦で負けただけ。
明日から他の切られた女と同じ。
純粋な恋なんて無理。
人気者の貴方は選びたい放題。
可愛い子なんて沢山居るから。
「だから馬鹿だなあ」
唇の横に口づける。
「だから切ったのに。明日から純粋な恋をするために」
下手な恋愛、片想いは辛すぎる。