自分探し
「自分探しの旅に出るね」
君はそう言って僕の前から姿を消した。
消えた君を僕は追いかけなかった。
少し阿呆らしいとも思った。
自分探しの旅?
そんなの、探せずに帰ってくるのがオチだと。
『自分自身のことは自分が良く分かってる』
人は度々そんな風に人に反抗する。
だけど本当はそんなことないって気付いてるでしょ?
だから『自分探し』なんてするんだ。
だけど僕は一生分からないと自負しているよ。
……いや、まあそうだね。
もしかしたら君は見つけるかもしれないし、
そんなの僕だけかもしれないね。
でもそれが正解とか、不正解とか。
本物とか、偽物とか。
そんなことは絶対分からないだろう。
見つけたら最後、それが本物だと信じて抱え込むだけだけど。
誰かが言っていた気がするよ。
生まれたときに手放したものは、運命のヒトが持ってるってさ。
それは自分の想いの欠片かもしれない。
君のそれを僕が持っていたら、どうしてあげようか。
きっと僕が持っていたら君はここに帰ってくるね。
そのとき僕の預かったものを返してあげるよ。
僕のも返してもらう。
だけど僕以外の人なら帰ってこない。
僕だって直ぐに忘れよう。
でも僕は信じてる。
君は直ぐに帰ってきて、僕の顔を見て笑うでしょ?
「やっぱり落ち着く」って。
半身を置いていくなんてさ、心地悪いに決まってるんだから。
それからゆっくり探せばいいさ。
僕ら二人居れば漏れなく探せる。
そうして少しずつ形成された人格と愛で、また新しい半身を生み出すのかな。
手を取り合って、笑いあって。
そんな自分探しも良いもんでしょ?
これ、僕の持論ね。
だから君が探すのは、去ったんじゃなくて"消えた"僕。