Smell
思い出したい。
傍にいた人を、共に見た景色を。
心地良い涼しげな夕暮れ時の風、
それは確かに私の記憶にある。
懐かしい、なんとも表現し難い匂いを嗅いだとき、
私の頭の中にフラッシュバックする。
その光景の詳細は何故か分からなくて。
実際過去にあったかすらも思い出せないでいる。
もどかしくて、
何度も懐かしさに涙が溢れて。
元には戻れない過去が過去なだけに、
余計に寂しさを感じた。
本当はなくしてはいけなかった記憶のように思えた。
忘れたことに胸が締め付けられて苦しかった。
分かっている筈なのに、幾度も同じ幻影を追いかける。
夢を見て、現実と交錯する。
さっと横切る光景に、その時の匂いがついた。
舞台裏、サンドイッチの匂い。
塔の上、雨の匂い。
島のお店、海の匂い。
煌びやかなイルミネーション、異国の匂い。
月が大きく浮かぶ湖畔、森の匂い。
窓から見る夜の街、車の匂い。
迷子になる複雑な道、山の匂い。
途中で立ち寄る施設、田舎の匂い。
全てが嘘で、全てが本物。
絶えず毎日望んでる。
どうか同じ景色をもう一度見たいと。
同じ場所で、同じ空気で、同じ人と。
もう何年も、望んでる。
思ったこと。