soar
「生まれてこなければ良かった」
そう君は揺れる瞳で呟いた。
「俺がいたからいけなかったんだ。
疫病神だから」
私は首を横に振るだけしか出来なかった。
「死んだら、駄目」
なんて、何で簡単に告げてしまったのだろう。
「だから家族は苦しむんだ」
ほんとうはいらないんだよ。
薄く笑って(あれを笑いきれたと言うならば。)、君は俯く。
その目は潤んでいるようだったけれど、一筋も涙は流れなかった。
「死ねたら楽なのになあ。
神様ってやつは、最後まで意地悪だ」
「死んで欲しくないよ」
私がそう縋れば、君は静かに笑う。
「そう言ってもらえるなら、もう未練なんてないのに」
この人の中には「死」しかないんだと分かって、不思議と納得してしまった。賢い選択なのかもしれない。
私は、そんな勇気すらないから。
「なんで俺は生まれてきたの?」
なんでなんで、と壊れたように繰り返す君の瞳は、その場に合わずキラキラしていた。
「愛するとか、愛されるとかって何だろうね」
私に笑いかけた君は、この世の終わりを見て諦めたような感じだった。
「あんな上辺だけの、一瞬の愛なんていらない。
もっと綺麗に愛されてみたかった」
「私も」
その意見に同調すると、優しい表情を向けた。
私はその顔が好きだった。
「自由も欲しかった」
「鳥みたいに飛べたらいいのにね」
あまりに綺麗な目で言うから、つい答えてしまう。
「さっき飛べそうな気がしたんだよね」
さっきとは、私が自殺を止めに入る前のことだろう。
飛び降り自殺寸前で引き止めたが、その瞬間飛べるような感覚だったのか。
「人並みに笑ったりしたかった」
ひっついたかめんは、あつくてもとれない。
周りはコロリと騙される完璧な笑顔を君は振り撒く。私以外は皆知らないこと。
「我が侭な最後のお願い、聞いてくれるかい?」
うん、と頷く。君は嬉しそうに笑った。
「俺の分まで生きて」
目の前が真っ暗になって。
耳に何も言葉が入ってこなくて。
ただ一つ聞き取れたのは、
君の死。
(「鳥になれたかな」って空を見上げたら、青い中に白い鳥が優雅に泳いでいた)