満たされたい
何で泣いているの?
「嫌い」と言ってはねのけられた俺の手は、
少しだけ赤くなっていた。
「嫌い、なの」
部屋に響いた呟きは思いの外大きかった気がする。
俺は、ただ相槌を打つことしか出来なかった。
ポツリ、ポツリと零す言葉に、
壊れたように、それしか知らないように「うん」と答えた。
「怖いの。でも愛されたい」
「うん」
「どうしたらいいのかな……」
それきり黙ってしまう。
暫くぶりに俺は「うん」以外の言葉を発した。
「いいんじゃねーの?」
「え?」
「だから、別に怖いなら怖いで」
つか、愛情なんて異性から貰うだけのもんじゃないでしょ。
そう言ってあげれば、多少は和らいだ表情になって。
まず、俺に相談してる時点で矛盾してるんだけどね。
俺はすぐに女を押し倒すような野蛮な人間じゃありませんから。
そこんとこ、何年も一緒に居て分かってるらしい。
「そうだね」
「友情だって立派な愛情だから。俺だってその一人」
そう告げて立ち上がる。
空気で分かる、相談はこれで終わり、悩みは解決。
他の友達なら頭の一つや二つ、撫でていくんだけど、
あんまり怖がらせたくなくて近寄らずに出て行こうとした。
「じゃあな」
また何かあったら呼べよ、話くらいは聞いてやるから。
ドアノブに手をかけた俺の反対の腕を掴まれる。
「ありがとう」
いつもの笑顔にほっとして、その手を解いた。
それからそっと頭に手を乗せて、軽く髪をかき混ぜる。
外に出て、後ろでドアがしまる音がしたとき、
俺は無性に悲しくなった。