幻想
送らないメールを作成して、
言いたいこと書いたら即削除。
今日あったこと、
愚痴、
惚気、
全部書いてでも届けられなくて。
送信ボタンは押しちゃいけない。
現実と幻想の狭間は跨いだらいけない。
一人でポツンと立っているのは
青い世界。
透明な水の上。
誰もいないくて寂しい世界。
いつもより大きく見える月だけが私を見ている。
知った顔も何もない。
助けてと言える人もいないんだって、
今更気付いたんだ。
隣で笑っていた人は皆、
ずっと向こうで小さくなっている。
その悲しさを伝えてもいいだろうか。
携帯を取り出してメールを書く。
だけどやっぱり送信出来なかった。
此処は何処だろう。
「あ い た い」
誰でもいいから私に話しかけて。
深い水に溺れてしまいそうな、
そんな感覚を覚える世界。
空気も吸えないよ、
喋れないよ、
手も重くて伸ばせない。
ただ沈んでいくだけ。
あのときボタンを押せれば、
私は今頃……?
違う。
左目を貫いた閃光が叫んだ。
その時誰かが右手を掴んだ。
分かるような分からないような。
その温もりは知っているような。
私が握り返したら、
その手は私を引っ張り上げた。
目を開ければ、
痛いくらいの現実。
目を閉じれば、
未だ幻想に取り残される。