フェティシズム
止められない。
身体のパーツ全てに目がいく。
色のある指先。
その指先がなぞる、プルっとした唇。
筋の通った高い鼻。
切なげに揺れる瞳。
そこらの女子より手入れされた肌。
綺麗な声でさえずる度に上下する喉。
丁度良い淡い褐色の長い首。
形の良い鎖骨。
あまり筋肉質じゃない、むっちりした二の腕。
細くて、でも男性的な手首。
誘うようにくねらせる腰。
全てがワタシの好みだった。
今まで望んだ人は、何か欠けていた。全部なんてなかった。
だけど遂に見つけたのだ。
ワタシの運命の人。
恋、かどうかは知らないし、どっちでもいい。
どうせ手の届かない人――こんな性癖打ち明けられるはずもない。
だからいつも想像するだけ。
あの二の腕はどんな柔らかさなんだろう、って。
見た目通り、女子みたいな柔らかさなのだろうか。
別に、可愛い女子は好き。でもそれがフェティシズムの対象になるとは限らない……というより殆どない。
むしろ好きと思うばかりに優しくしてしまうタイプだから。
嫌と言われることなんてしたくない、そんなワタシ。
だけど彼は違う。
嫌だと身を捩って抵抗されるのも、反抗的な目で睨まれるのも好き。
決してワタシはマゾヒストではない。
だって彼を泣かせてるのはワタシであって、そういう方が燃えるでしょう?
泣いた彼が見たい、その一心で。
もっと意地悪して、でも優しくする。
飴と鞭は大切。毒気にやられればそれすら快感じゃないの?
それからやんわり頂く。変な意味じゃなく、本当に。
でもそうじゃなくてもいい。正反対でもいい。
ワタシに噛ませてくれるくらい、好きで溺れてもらっても構わない。
ただ、優しくさえしてくれれば。
結局のところ、この欲求を満たしてくれるなら何でも。
これを恋って言うのかしら?
だけど"恋"の一言で片付けてしまうには、重い愛だわ。
そう、"狂愛"。
殺したいとは思わないけど、その存在を舌や歯で感じたい。
十分過ぎるくらいに狂ってるでしょう、ワタシ。
だから駄目なの。僅かに残ってる理性がストップをかける。
目の前の指が辿り着くより先に、誰かの名を呼ぶより先に、
その半開きの唇に噛みついてしまいそうだから。
柔らかく歯を立てる。
傷付かぬように、だけど肌を味わう。
結果的に痕はついてしまうが、これは私のつけたキズ。
アナタがここに居ることを、ワタシに教えて欲しい。
アナタが欲しくて仕方がない。
だからワタシのものになって。