冷凍の彼方で。【冷凍ジャングル改題】
スイッチを押した。
ヴンと小さく唸ったそれは、管の中の液体を押し流す流体音と共に心地よい音を奏でている。
「では始めましょうか。」
スズキ氏は手持ちのスイッチをもう一段階入れた。
私はそれを何気なく見ている。
本当は怖くて仕方がないのに、本当は叫びたい位なのに体がそう言う頭のコードを一切拒否をしてい
る。
☆
遡る事数時間前、私は震える手でサインをした。
書類には色々約款だの、誓約書だの、ハンコだの(いまどき!)を何枚押印したり書いたりしたのか全く分からないほどだった。
隣にいる妻は「本当に大丈夫なのかしら。」と心配そうだったが。
私はその不安が私の事だと、ばれたくないから強がり。
「いや大丈夫、大丈夫。みんなもしているだろう。」
そう言って周りを、見渡すように、妻に促すように周りを見た。
安心させるつもりで。
核戦争や、世界大戦を待つことなく、人類は危機を迎えていた。
気候変動を通り越し、狂ったような気候により各都市は荒れ狂い、南と北の氷は解け、地殻変動により大陸は沈み人類は這う這うの体で存在していた。
SFの様にこの星を逃げるための宇宙船など望むべくもなかった。
だから人類は、この星に留まるべく最後の賭けに出た。
会場に集められた私たちはもう一度説明を受けた。
最後に。
「未来は約束はできないのでそれだけはご了解願いたい。」と保身のためのセリフを忘れず付け加えていた。
そのセリフに、妻はギュッと私の手を握り締めた。
席の向こうを見ると、我々の住んでいる、まばらになった集合住宅の十件向こうに住んでいる新婚夫婦がいた。
夫の方がこちらに気付いたらしく、お互い会釈をそして新妻の方を向き何か呟き合っていた。
視線を外しそしてもう一度そちらを見るとキスをしていた。
極限状態だ、相手の体温を肌で感じたいのだろう。
妻の方を見ると、同じくそれを見て鼻の穴が広がっているのが可笑しかった。
敷地にあるその装置を見上げた。
「冷凍ジャングル」
そう、全人類がこの林立したこの人工冬眠装置で眠り、生存活動を止め、地球の負荷を取り除き何百年後かに未来を預けることにしたのだ。
その頃には元通りの地球になっているはず、という希望を乗せて。
目覚めた時には、林立した装置が、木々が生い茂るジャングルの中で目覚めるはずだと、希望を込めてそう命名された。
☆
私は最初に目覚めた時に見る景色を妻にしようと、カプセルの中に入り妻の顔を見ながら眠りについた。
そして目覚めた時に彼女も同じ風景を見いますよう、祈った。
小さく唸った管の中の、奏でている液体を押し流す流体音の心地よい音。
それを聞き私たちは、幾百年の眠りについた。 了
目を通していただき誠にありがとうございます。もし、御手隙でしたら評価いただければ幸いです。




