真夜中に響く音
オレの名前は、沢村タツキ。
今年から大学生になる。 そのため、現在は引っ越し先を探している。
だが、なかなか条件のいい部屋が見つからない。
ここ二年、週二日のアルバイトを続け、それなりに貯金はした。だが、決して多いとは言えない。 だから大学に入ってからも、近くでアルバイトを続けるつもりだ。
家を探し始めて数週間。 ようやく条件に合いそうな部屋を見つけた。
だが――妙だった。
とあるアパートなのだが、一部屋だけ家賃が異様に安い。
曰く付きだろうか?
“事故物件”は危ないと聞くし、不動産の人に相談してみるか。
■ ■ ■
翌日
オレは、そのアパートを管理している不動産会社へ足を運んだ。
席に案内され、見つけたアパートについて尋ねる。
「その部屋のことですか……」
担当者は少し間を置いてから口を開いた。
「事故物件ではないんです。ただ――その部屋に引っ越した方は、皆さん二週間以内に退去されていまして。原因も分かっていません」
担当者の口ぶりは淡々としていた。
「退去した人たちは、何か言っていましたか?」
気になって尋ねる。
「皆さん、『音がする』と仰っていましたね」
(音、か……)
それだけ聞いて、オレは少し考える。
確かに気にはなる。
だが、大学は近い。
飲食店もコンビニも多く、アルバイト先にも困らなそうだ。
何より、ほかの部屋は家賃八万三千円。
それなのに、この部屋だけ二LDKで三万五千円。
学生のオレには、あまりにも魅力的だった。
「ここにします」
そう告げると、担当者は少しだけ目を伏せた。
「……本当に、よろしいんですか?」
オレは小さく頷いた。
「契約書にサインをお願いします。 その後、重要事項の説明を担当する者をお呼びします」
担当者はそう言うと、席を立った。
サインを終えてしばらくすると、メガネをかけた人を連れてきた。
「わたくし、本物件の重要事項説明を担当いたします、ヤマダと申します。
よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
挨拶を済ませた後、火災保険や契約期間、ゴミ出しのルールなど、一通りの説明を受けた。
音の正体も、退去した理由も、結局は分からないままだった。
全ての説明が終わり、オレはその場を後にした。
■ ■ ■
引っ越し当日、全ての荷物を積み終わりトラックが先に向かった。
オレも引っ越しトラックの後を追う。
「父さん、母さん。 行ってくるね」
「気をつけてな」
「たまには帰って来なさい」
二人がそう言うと頷き、引っ越し先へ急いだ。
■ ■ ■
タクシーでアパートへ向かい、ほどなくして目的地へ到着した。
作業員に指示を出し、家具を設置してもらう。
エアコン、洗濯機、冷蔵庫も買ったが、まだ届いていない。
今週中には設置されるみたいなのでそれまで不便だが仕方ない。
作業を終え、引っ越し業者さんは帰っていった。
部屋に一人になり、ベッドへと寝転がる。
家電を買うのにかなり使ったため、貯金は四分の一ほどになった。
「バイト先、探さないとな」
そう呟くも、引っ越しの疲れもあってか、そのまま眠りに落ちてしまった。
■ ■ ■
その日の夜
暗闇の中、目を覚ました。
「…いっけねぇ、風呂入ってない」
ムクリと起き上がり、風呂場に行く。
電気やガス、水道は引っ越し前に手続きを済ませていたので、すでに使える状態だった。
シャワーを浴びていると、“コツン”という音が聞こえた。
オレは気になったものの――
(気のせいか)
そう思い、風呂を出て体を拭くと、再びベッドへ入り、眠りについた。
■ ■ ■
翌日
新生活、二日目の朝だ。
オレはいつものように顔を洗い、歯磨きを済ませた。
着替えて、コンビニや近くの飲食店を回り、バイトを募集してないか聞いてみたが――結果は全滅。
今日はエアコンの取り付けの日だ。
大学が始まるまでまだ時間はある。
焦らず、行こう。
帰宅して、待っていると、業者がやってきた。
作業が終わると、業者は帰っていった。
時刻は夕方。
オレは調理器具を買うついでに近くのスーパーへ向かった。
「色々買っていたら遅くなっちゃったな」
閉店ギリギリまでいたオレは暗闇を歩き、家へと向かっていた。
階段を上り、引っ越してきた二〇一号室へ入ろうとしたその瞬間――人の気配を感じて振り返るも誰もいない。
「あれ?」
疑問に思いながら、部屋に入り夕食の準備をした。
やることを終えて、寝ようとしたとき――コツン、コツンと音が鳴った。
気にも止めず、眠りについた。
■ ■ ■
翌日
今日もいつも通り身支度を済ませると、外へ出た。
オレは大学までの道沿いにある店を片っ端から回って、バイトを募集していないか聞いてみた。
時刻は夕方。
家と大学の間くらいにあるコンビニで働けることになった。
店長さんに事情を説明し、入れる時間を決める。
大学まで自転車で三十分くらいかかるのでバイト先までは十五分くらいの距離だ。
早速、明日から入ることになった。
とりあえず、大学が始まるまで朝八時から夕方五時までシフトに入れてもらった。
入学まであと二週間。バイトにも慣れて、新生活を軌道に乗せようと決意した。
帰宅してやることを済ませ、寝ようとした瞬間、コツン、コツン、コツンと音がなった。
■ ■ ■
早いもので引っ越してきて約二週間が経った。
バイトも頑張り、明日から大学生だ。
今日はバイトは休みだった。
けれど、シフトのことで相談があったから行ってきた。
時間帯は十七時から二十四時までに変更された。
買い物を終わらせ、ふっとここ最近のことを思い出す。
あれから――毎晩毎晩、コツンコツンと音が鳴り、うるさいのだ。
最初は一回だった音も、翌日は二回、三日目には三回。 気づけば毎日一回ずつ増えていて、昨日の夜は十三回も鳴っていた。
丁度、オレが引っ越してきた時期と重なる。
偶然だろうか?
階段を上り、部屋へと急ぐ。
上り終えたとき、とある違和感に気付く。
(階段が“十四段”しかない?)
十四階段――事故が絶えないと噂の都市伝説だ。
(偶然だよな?)
自分の体から血の気が引くような感覚があった。
焦る気持ちを抑えながら、部屋の前まで行き、鍵を開けようとした。
すると、コツン、コツン――階段を上ってくる音が聞こえた。
目に入った腕時計の時間を確認した。
二十一時を回ったところだった。
恐怖のあまり、体が動かなくなった。
“十四回”音がなり、思わず、階段の方を振り向く。
だが、そこには誰もいなかった。
安心して扉を開けると、後ろから抱き付かれていることに気が付いた。
背中に回された腕。
触れた肌は、あまりにも滑らかだった。
綺麗だと思った。
けれど――人間のものではない。
そう直感した。
「やっと、会えた」
耳元でそう囁かれ、オレは意識を落とした。
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