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金木犀の甘い香りを含んだ空気を吸い込むと、何故だか切ない気分になる。

作者: 寒がり

 金木犀の甘い香りを含んだ空気を吸い込むと、何故だか切ない気分になる。


 果物のようにみずみずしいあの小さくて黄色い花から漂う、どこか儚く寂しげな甘い香り。それは、バニラのように暖かく能天気でミルキーな甘さではなく、かといって柑橘のようなスッキリとした甘さでもない。胸が締め付けられるような、酸味とも苦味ともつかない特有の後味の、しかしやっぱりある種の甘い香りだ。


 その甘美さは、殆ど失恋に似ているのかもしれない。


 それは一体、どこから来るのだろう。

 一つには、金木犀の薫るのが、ちょうど人肌恋しい寒さが訪れる頃だからかもしれない。あるいは、金木犀がちょうど春の桜よろしく短命な花だからか。


 寒さが厳しくなるにつれ、金木犀の匂いは薄れていく。

 満ち足りていたものがどうしようもなく零れ落ちてゆく感覚。好きなものが押し留めようもなく消えていくことを寂しいと思う。喪失に対してヒトはそのように感じるようにできているのだろう。

 

 冬の空気の冷たさと相まって、失われてゆく感じを抱かせるから金木犀の香りは切ないのかもしれない。


 


 

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