(クラリッサ視点)何をしてでもヴァルモントを立て直す
ガルドのおかげでヴァルモントの壊滅は回避できたわ。
わたくしも衛兵の指揮やもらった盾を使ってサポートはできたけど、彼がいなければ結果は大きく変わっていたでしょう。ヴァルモントに住む人たちは全滅し、わたくしも死んでいたはずよ。大切なアリシアだって同じ道をたどっていたわね。
返しきれないほどの恩を受けてしまった。
その上、ボランティア活動までしてくれて、復興も助けてくれているわ。
その恩にわたくしは報いなければいけない。
ヴァルモントが復活するのに必要な大金を用意してみせますわ!!
◇ ◇ ◇
数日馬車に乗ってようやくローゼンベルク領に入ったわ。
今は夕方ぐらいの時間でもう少ししたら暗くなるわね。
目的は領主――お父様が住んでいるお屋敷。先触れを出していて足を踏み入れる許可は得ているのだけれど、婚約破棄された傷物の女を歓迎するとは思えない。酷い扱いをされることでしょう。
暴力を振るわれて監禁されるかもしれません。
もしそうなっても、わたくしは諦めませんわ。何を引き換えにしても、わたくしは目的を達成するだけ。
流れる景色を見ながら決意を固めていると、ようやく屋敷に入ったわ。
誘導されるまま玄関前で馬車から降りると、執事長のトルベが頭を下げて挨拶をしてきた。
「クラリッサお嬢様のお越しを心待ちにしておりました」
「あら、まだ私を令嬢扱いしてくれるの?」
「もちろんでございます」
他人扱いされる覚悟までしていたのに、丁寧な対応をされてびっくりですわ。ローゼンベルク家はわたくしをどうしたいのかしら。
勘当されたと思って連絡をしてなかったから、状況がわからないわ。
ただ相手が昔通りの扱いをしてくれるのであれば、わたくしが下手に出るのもおかしいので、令嬢として振る舞うことにしましょう。
「お父様に会えるかしら?」
「ご案内いたします」
屋敷の中に入っていたので、わたくしも後を付いていく。
廊下は何も変わってないわね。赤い絨毯、壁に掛けられた絵画、少しだけ感じるホコリの臭い、細かい傷、すべてが同じ。追い出されたあの日から時間が止まっているみたい。
三階に上がってお父様の執務室に着くと、執事長のトルベはドアを開けてくれた。中には入らないみたいね。
「クラリッサお嬢様がお越しになりました」
心臓がドキドキする。破裂しちゃうんじゃないかって思うほどの動き。悪魔と対峙したときと同じぐらいの緊張感を覚えているわ。
負けてられない。
わたくしは執務室の中に入ると、ドアがパタリと閉められた。
お父様は専用のデスクで書類を片付けているようで下を向いていたわ。
「少し待っていてくれ」
ペンを走らせながら言われたので、わたくしは黙って立ったまま室内を見ることにした。
ここも何も変わっていない。記憶通りで、わたくしが小さい頃にプレゼントしたぬいぐるみまであるわ。勘当したときに捨てられたと思ったのだけど、残していたのね。
ねぇ、お父様。
思い出を残しているということは、少しは期待していいのかしら?
「待たせたな」
ペンを置く音がしたので正面を見るとお父様と目が合った。
顔に切り傷がある。若い頃、魔物と戦ったときにつけられたと聞いているわ。お父様は男の勲章だと自慢していたわね。
前にあったより少し老けたように見え、また目に隈があるように思える。
健康状態は大丈夫なのかしら。
「元気にしていたか?」
「色々ありましたが、トータルで見ると楽しく過ごせていましたわ」
ふっとお父様の表情が柔らかくなった。
でもすぐに険しい顔に変わる。
同時にわたくしの緊張感も高まる。何を言われるのだろう。お説教かしら。
「すまなかった」
「え?」
いきなり謝られて、何が何だかわかりませんわ。
頭が真っ白になっているとお父様が話を続ける。
「お前を追い出した後に再調査したのだが、嫌がらせなんてしてなかったんだな。すべては虚言だというのがわかった」
マナーを教えるために注意をしたことはあるけど、わたくしのプライドが許さなかったので、イジメなんてしてなかった。
当時、誰に言っても信じてもらえなかったのに。
今さらという感情が湧き出てくる。
「勘当を取り消しにする。ヴァルモントなんて街の代官をする必要はない。戻ってこないか?」
左遷させられた日に言われたら、わたくしはお父様の言う通りにしていたでしょう。
でも今は違いますわ。
ガルドを始めとした、住民たちとの絆がありますもの。わたくしだけ何の苦労もなく生活するなんて考えられない。逃げるなんてしたくはないの。
「申し訳ございませんが、わたくしは代官の役目を果たしたいと思っておりますわ」
「そう言うと思っていた。気にするな」
その信頼をあの時も発揮してくれればと思い、口を閉ざしました。
婚約破棄のときは混乱が多く、誰もが冷静になれなかったもの。どこかでおかしいと思っても、進むしかなかったのよね。
あの時だけは、クローヴェン第一王子の策略が国内の誰よりも上回っていた。
「では用件を聞こうか。まさか恨みごとを言いに来たんじゃないんだろ?」
「お父様なんて大っ嫌いぐらいは言わせてもらえないかしら」
不意打ちが出来たようで、難しい顔をして黙ってしまったわ。
ほどよく罪の意識を感じてくれていることでしょう。この後が進めやすくなったわね。
「冗談ですわ。本当は資金援助の依頼に来たの」
「ヴァルモントの悪魔騒動か。話には聞いている」
悪魔が暴れ回ったことは国内中に広がっているわ。悪魔の書を手に入れたデシアン子爵は爵位の剥奪を検討されていて、もし決まればすべて王家の直轄領になる予定。裏にマティルダ王妃がいるのだけれど、そこまで捜査の手が伸びることはないでしょう。
真相は闇の中へ。
いつもと変わらない。今回も、ありふれた結果になってしまうわね。
「金貨1万枚を用意しよう。それと復興には金だけじゃ足りない。人手も出す。細かいことはトルベと詰めてくれ」
「デシアン子爵領なのよ? お金はともかく人は問題にならなくて?」
「没落しそうな貴族ならやりようはある。私に任せなさい」
お父様が自信を持って言ったのであれば、本当に何とかなるのでしょう。腐っても公爵家。伝手はあるってことね。
「ありがとうございます。これでヴァルモントは持ち直しますわ」
ほっとしているとお父様は優しい笑顔を浮かべた。
小さい頃、わたくしを抱きしめていたときと雰囲気が似ているわね。
「お話は以上ですわ。お忙しい中、時間を取っていただき感謝しております」
お礼を言ってから部屋を出ようとすると、お父様が声をかけてきた。
「ここはクラリッサの家でもある。またいつでも帰ってきなさい」
少し前に言われたら喜んでいたかもしれないけど、まったく心に響かなくて驚いてしまったわ。わたくしには自分で作り、勝ち取った居場所があるの。生きて死ぬ場所は決まっているのよ。
「わたくしの帰る場所はヴァルモントです」
断ったらお父様が悲しそうな顔をしてしまった。
今後もお金や人材で頼ることは多い。少しは歩み寄っていいかもしれないわね。
「ですから、また遊びに来ますわね」
「ああ、そうしてくれ。私も時間ができたらヴァルモントに行ってみる」
「その時は盛大に歓迎いたしますわ」
お父様は直接やりとりをしたこともあるから、実際に来るならガルドを隠さないといけないわね。
わたくしの大事なパートナーは誰にも渡さないわ。絶対に秘匿して囲い込むんでやるんだから。
逃げようとしたら結婚でもしてつなぎ止めてみせる。
わたくしの魅力的な体なら、きっと問題なく出来るわ! 間違いないわね!
これで完結となります!
最後に評価してもらえると嬉しいです!!




