ヴァルモントの再建
「とりあえず危険は去りましたわね。後片付けをするだけなので、ガルドも戻ってもよろしくてよ」
遠回しな言い方ではあるが、リリィのことを気づかってくれているみたいだ。
俺たちの活躍によって自宅の方に被害は出ていない。地下室に避難していれば無事なのはわかっている。もう少し時間をかけて調査をしてもいいと思ったのだが、クラリッサの考えは違うようだ。
「待っている方は何も出来ず、意外と辛いのよ」
やけに実感がこもっている。婚約者が取られ、罰を言い渡されるまでのあいだのことを思い出しているのだろうか。
「ご配慮感謝いたします。私は家に帰りますので、何かあれば呼んでください」
「そのような機会がない事を祈るわ」
もう騒動はこりごりといった感じで、クラリッサはため息を吐いた。
悪魔の暴走、ヴァルモントの半壊、デシアン子爵の暗殺。濃密な一日だった。もう何も起こって欲しくないという気持ちはわかる。
俺だってしばらくは何事もなく平穏に過ごしたいと思うほどには疲れているしな。
「それでは失礼いたします」
軽く頭を下げてから、屋敷を出て大通りを歩く。
悪魔討伐の知らせは広がっているようで、多くの住民の表情は明るい。生き残ったことを喜び合い、最前線に出ていた衛兵や冒険者たちにお礼を言う姿まで見えた。
まるで英雄を扱うような態度だ。
平和なときは邪魔者扱いをされることも多かったんだが、一度でも危機が訪れてちゃんと守り切ると、評価は一変するんだよな。
「ガルド! 助かったぜ!」
「ありがとねー!」
「今度メシを奢るからなっ!」
俺にも優しい声をかけてくれる人は多い。帰りを急いでいるのだが、周りを囲まれてしまい、立ち止まって対応しなければいけないほどだ。
怪我がないかなどを確認されていると、聞き慣れた声がしてきた。
「おーーい」
振り返るとロディックが手を振っていた。彼の妻もいてリリィと手を繋いでいる。
騒ぎが収まったことに気づいて地下室から出てきたのだろう。
「パパーー!」
リリィは俺の姿を見つけると、ロディックの妻から手を離して走り出した。
人垣をかき分けて近づくと跳躍をして抱きしめてくる。ドラゴンの尻尾は俺の腕に絡めていて、絶対に離さないといった強い意志を感じる。骨がミシミシと鳴っているので、後で痣になってそうだな。
「怪我してない? 大丈夫?」
「見ての通り無事だよ。約束通りだっただろ?」
「うん! パパすごい!」
頬をスリスリとこすり合わせている。角が頭に当たって痛いのだが、ずいぶんと寂しい思いをさせてしまったので文句は言わない。
なすがままにされていると、ルカスとシアの姿を発見した。
全身が汚れていて俺が売ったスモールシールドは焦げている。悪魔の攻撃を防いだのだろう。二人もヴァルモントを守るために戦ってくれたのだ。
「二人とも戦ってくれたんだな」
「お世話になってますからね。当然です!」
これは上っ面の言葉じゃない。本音だ。ルカスは純粋な目でキラキラとしていた。
本当にお世話になったから、命をかけて戦ってくれたのだろう。今どき珍しいほど真面目な性格をしている。
「その当然をするのが難しいんだよ。怪我はないか?」
「シアが転んで膝をすりむいたぐらいですね」
「ルカス! 言わないで!」
戦闘ではない怪我のようで、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。
ドジなところもあるのは可愛らしい。
悪魔によって重傷を負わなくて本当によかった。
「僕たちは無事ですけど、街は大変なことになっちゃいました」
屋敷があった周辺は更地に近い状況だ。離れている場所もファイヤーボールが飛んでいって、壊れている家が点在している。被害総額は、考えたくもないな。俺個人が持っている資産だけじゃどうにもならない金額になるだろう。
デシアン子爵は死んでしまったので、すぐに支援を求めるのは難しい。
少なくとも次期領主が決まるまでは動けないだろう。
「そうだな。復旧には時間がかかるだろう」
「家を失くしちゃった人は可哀想……。パパ、どうにかならないの?」
娘のお願いであれば何でもかなえてあげたいが、今回ばかりは難しいな。
圧倒的に金が足りないのだ。
平民の俺ができることなんてない。クラリッサの手腕に期待するしかないのだが、個人資産を持っていない彼女じゃ俺よりも取れる手段はないだろう。
「難しいな」
「そうなんだ……」
「だが、俺たちだけでもやれることはある。瓦礫の撤去とかな」
金は出せないが労働力は提供できる。街に住む皆と被害に遭った人たちへの協力をすることで、クラリッサの負担を減らすことはできるだろう。
もちろん給与なんて出ない。ボランティアだから全員参加は難しいが、残っている人たちは地元愛が強いので、多くが参加してくれることだろう。
為政者に任せず、自分たちのことは自分でやるのだ。
「リリィも手伝う!」
「僕もです」
「私も頑張ります」
「気持ちは嬉しいが、二人は冒険者として変わらず活動してくれ」
ルカスとシアまでボランティアに参加する意志を示してくれたが、冒険者は魔石の回収をお願いしたい。
基幹となる産業がしっかりしていないとボランティアすら難しくなってくるからな。
そんな残念そうな顔をしないでくれ。
「魔石で街が潤えば復興も早まる。役割分担だ」
肩を落としているルカスの頭を撫でる。
嫌がることはなく、受け入れてくれた。なんか少し嬉しそうなのは、年上からの愛情に飢えていたからだろうか。
「ただ今日はとりあえず、皆の手伝いをしようか」
「はい!」
戦いで少しは疲れているが、まだまだ動ける。
瓦礫に埋もれた人がいないか調べながら、夜まで街の復興を続けることにする。
これが明日、そして遠い未来、ヴァルモントが大きくなるきっかけになってくれるといいのだが。




