哀れな末路
悪魔による最後の攻撃もアンチポイズンリングで回避できた。
死者は数名出ているが、街全体の被害から考えれば「この程度で済んで良かった」と思える。プロレクションリングやカイトシールドがなければ、クラリッサは屋敷の崩壊に巻き込まれて死亡。衛兵も全滅していただろう。
そうなったら悪魔は飛び回ってヴァルモントを荒らし回ったはずだ。
俺やリリィはともかく、他の人たちは守れなかっただろう。
そんな危機的な状況を作り出した張本人を逃がすわけにはいかない。
「デシアン子爵を捕まえに行きましょう」
俺の提案にクラリッサは力強くうなずいた。
アリシアは衛兵と冒険者を取りまとめてケガ人の救出を行っているので、二人だけで屋敷へ戻る。
綺麗だった庭はファイヤーボールによって穴だらけになっている。木はなぎ倒されていてパチパチと燃えているものもあった。周辺に可燃物がないので火事になることはないだろうが、早めに消火活動はしておきたい。
半壊した屋敷の中に入って階段を登り、瓦礫を乗り越えていく。
崩落して通れない廊下もあったが、なんとかデシアン子爵がいた部屋にまでたどり着いた。
治めている街に大きな被害が出て怒り心頭なんだろう。クラリッサは大股で歩いて座り込んでいるデシアン子爵に近づくと呼びかける。
「何をしたかわかっているのですか! この責任はキッチリ取ってもらいますわよ!」
反応がない。
無視をされている。
それがさらにクラリッサを苛立たせ、手が伸びるとデシアン子爵の肩を掴んだ。
「聞いてますの?」
どさり。
音を立ててデシアン子爵が倒れてしまった。
左胸に短剣が刺さっていて死んでいたのだ。出血は止まっていて時間が経過していることがわかる。恐らくだが、悪魔が暴れ出してすぐに刺されたのだろう。
「え、えええっ!? わたくしはヤってませんわよ!」
俺を見て慌てて弁明しているが、殺してないことなんてわかっている。
一緒に戦場にいたんだぞ。
「わかっています。屋敷に残っていた誰かが殺したのでしょう。心当たりはありますか?」
「コックとデシアン子爵がよこしてきたメイドが二名……あ、今はもう一名ね。庭師は通いで今日は来ない日だったから関係ないし、それだけよ」
「コックとメイドの二人を探しに行きましょう」
「それがいいわね!」
やっと立ち直ってくれたのか、クラリッサは落ち着きを取り戻してくれた。
部屋を出て避難所として用意された地下室へ行く。鉄製の重いドアがあった。内側から鍵がかかっているようで、押しても開かない。
ドアをノックしながら中へ呼びかける。
「悪魔は倒したわ! 誰かいるなら開けてくれないかしら!」
すぐに反応があった。
ガチャリと鍵が動く音が聞こえて、ドアが開くと中年の男性が顔を出した。
「コックのボルダーね。あなただけ?」
「メイドのメイリも避難所に入るよう言ったのですが、屋敷から逃げてしまい私一人だけでお待ちしておりました」
「そのメイドで気になることはなかったか?」
「え、あなたは……」
ボルダーにとって俺は、見知らぬ人間だ。内部事情を言っていいのかわからず、クラリッサを見て助けを求めた。
「彼はわたくしが信頼しているガルドよ。問題ないわ」
「かしこまりました。メイリの袖や顔に血が付いていたのが気になっておりました。怪我をした様子はなかったので、誰かのものだと思うのですが……」
決まりだな。デシアン子爵を殺したのはメイリだと思っていいだろう。
「メイリはどこで雇ったんですか?」
「デシアン子爵から押しつけられたのよ。裏にはマティルダ王妃がいると思うから、計画に失敗したら殺せと命令されていたのかもしれないわね」
暴れている間に殺されたのであれば用済みとなって消されたのだろう。
目的はつながりを消すためだ。
悪魔の書なんて物騒な本を持っていたことを調べられ、マティルダ王妃までたどられたらマズいだろうからな。
次期王位継承に響いてしまう。
「理由はともかく、目的は口封じでしょう。先手を打たれてしまいましたね」
「ええ、困りましたわ。復興するにしても方針を決める方がいなくなってしまいました」
クラリッサは貴族ではあるが、ヴァルモントの領主ではない。代官としての権限はあるものの大金を使うのであれば領主の意向も確認しなければならない。
少なくとも報告は必要だ。
なのに、頼るべき相手が死んでしまっている。
思っていたよりも復興は苦戦するかもしれない。自力でどこまで進められるのだろうか。必要であれば、もらった金は返して使ってもらうことも考えないと。
「あのー。それで私は、どうすればいいでしょうか?」
貴族の策略に巻き込まれたくないようで、コックのボルダーはこの場から立ち去りたいようだ。顔が物語っている。
「しばらくはお休みにしましょう。仕事が再開するときには遣いをよこすので、家に帰りなさい」
「かしこまりました!」
逃げるように去ってしまった。
残ったのは俺とクラリッサだけである。




