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異世界に転生して35年。追放令嬢を支えた伝説の鍛冶師~寂れた街を再生するスローライフ~  作者: わんた


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リリィのトラウマ

 クラリッサたちを連れて中庭に出た。


 屋敷は半壊していて被害が大きい。戦場だと言われても納得できるほどの状況だ。壊した犯人を捜すため周囲を確認すると、上空にはメイド服を着た女性がいた。背中にはコウモリの羽、お尻辺りには尻尾が生えているので、彼女が悪魔と契約したと思っていいだろう。


 俺が邪魔をしたから契約先を変えたのか?

 それとも何かの間違いで悪魔の書を読んでしまったとか?


 どちらにしろ、酷い結果なのは変わらないな。最悪だよ。


 悪魔は願いをかなえる対価として、体を乗っ取って死ぬまで好き勝手暴れるんだぞ。メイドはそのことを知って……いなかったんだろうな。よほど追い詰められなければ、契約なんてしないはずだ。


「なによあれ」


 驚愕して思わず言葉がこぼれたんだろう。


 クラリッサは俺たちに聞こえるぐらいの声でつぶやいた。


 恐怖も覚えているようで少し体が震えているようにも見える。


「悪魔の書を読んだ人の末路です」

「では、犯人はデシアン子爵ってことですの?」

「間違いありません。彼を捕まえれば、悪魔の目的がわかるかもしれませんが……見当たりませんね」


 中庭を見渡しても少数の使用人の姿しか見えない。


 既に逃げてしまったのだろうかと思ったが、乗ってきた馬車が残っているのでそれはないだろう。走って逃げるにしても、俺たちより先に外へ出たとは考えにくいからな。


 まだ屋敷に残っているのかもしれない。


 一番被害の大きい二階の部分を見ると、壊れた壁の穴からデシアン子爵の姿が見えた。


 体がボロボロで頭から血を流している。息は荒く、瓦礫に寄りかかっていた。


「悪魔よ! ヴァルモントを滅ぼしたまえ!」


 ゲームのシナリオではクラリッサが契約をして反乱を起こす流れだったが、俺が介入したことでヴァルモントの破滅に変わってしまったようだ。


 リリィが危ない。


 誰よりも先に、俺の帰りを待つ少女の顔が浮かんだ。


「家に戻ります」

「悪魔は放置するの?」

「戦うにしても道具が必要なので、この場は引くしかありません」


 今日は話しに来ただけなので武器を持っていない。防具だって最低限のものだけだ。何をするにしても準備が必要である。


 邪魔なので服で顔を拭ってメイクを落とし、上着を投げ捨てると走り出そうとした時に気がつく。


 クラリッサとアリシアは立ち止まって空を見上げている。動く気配はなかった。


「逃げないんですか?」

「わたくしの街を狙っているのよね。だとしたら許せないわ」


 責任感が強く勇ましい。


 騒動に気づいて衛兵も集まっているので、指揮を執るつもりなんだろう。プロテクションリングがあるから即死はないだろうし、この場は任せるべきか。


「わかりました。俺が戻るまで耐えてください」

「あなたに出番は渡さない。倒してみせるわ」

「期待していますよ」


 時間がない。話を切り上げて走り出す。


 屋敷の敷地を出て大通りを進んでいると、背後から爆発音が聞こえた。足を動かしながら振り返ると、天に届くほどの火柱が立っている。


 倒すなんて言っていたけど、低ランクの冒険者すら捕まえられない衛兵じゃ無理だ。できて時間稼ぎ程度だろう。


 俺だってまともな武器がないと戦えるかわからない。余力なんて残さずに全力を出すべきだろう。


 家に着いたので中に入るとリリィが飛び出してきた。


「すごい音がしたけど何があったの?」

「悪魔が出現した。リリィは地下室で隠れてくれ」

「パパはどうするの?」


 ヴァルモントという寂れた街は、逃げ延びてたどり着いただけで、最初は思い入れなんてなかった。いつでも捨てられるはずだったんだが、築いた絆が俺を引き留める。


 苦難を乗り越えたクラリッサと一緒に街を復興させるんだ。


 悪魔ごときに邪魔をされてたまるか!


「この街を守る」


 強い決意を込めて言うと、店の中にある倉庫へ入った。


 グレートソードを取り出して過去に作ったカイトシールドと水晶を手に取った。中に魔法文字が浮かんでいる。俺は封印石と呼んでいて、指定した相手を封印する能力がある。


 瀕死になった悪魔であれば逃げ出せないだろう。その命が尽きるまで、水晶の中に入れられるはずだ。


 封印石を腰のポシェットに入れて店に戻ると、リリィが立っていた。手には俺が買ってあげた槍がある。


「早く地下室に!」

「パパが頑張っているのに逃げたくない!」


 なんと悪魔と戦うつもりらしい。クラリッサに負けず劣らず勇ましいことだ。


 可愛い義娘のお願いを聞いてあげたくなるが、今回ばかりは相手が悪い。


 リリィを連れていくわけにはいかないのだ。苦渋の決断ではあるが断るしかなかった。


「ダメだ。隠れなさい」

「でもパパがいなくなったら私は……」


 槍を手から離してリリィは泣いてしまった。


 本当の父と母は魔物との戦いで死んでしまったので、俺も同じようになるのが怖いのだろう。


 先に気づいてあげられなくてごめん。父親役として失格だな。


 すまない。クラリッサ。もう少し時間をくれ。


「俺は死なない」


 泣いているリリィを優しく抱きしめた。


 体が震えているので背中を優しく撫でて、落ち着くまで続ける。鼻水をすする音が聞こえて、服が濡れてしまったが気にはならなかった。


「本当に大丈夫なの? パパは死なないの?」


 俺の胸に顔を埋めたまま聞いてきた。


「嘘はつかない。必ず戻る」

「本当?」

「ああ」

「本当に本当?」

「嘘はつかない。信じてくれ」


 何度も確認してようやく納得してくれたのか、もしくは諦めたのかわからないがリリィは俺から離れた。


 もう泣いていない。強い目をしている。


「地下で待っているから必ず迎えに来てね」

「任せろ。すぐに終わらせてくる」

「うん! 約束だね!」

「約束だ」

 

 リリィは地下室がある方へ行ってしまった。


 時間をかけてしまったがクラリッサたちは生き残っているだろうか。


 内心で焦りながら、俺は屋敷に戻るため家を出た。

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