問題をクリアしたヴァルモント
珍しくクラリッサに呼び出されて代官の屋敷に来ていた。
詳しい用件は聞いていない。どうやら内密にしたい話があるらしい。
アリシアに通されると客間に入ってソファへ座る。向かいにはドレスを着たクラリッサがいた。露出は少ないが体にピタリと張り付くような服で目のやり場に困る。
結婚は諦めたと言っていたはずだが、まさか色仕掛けをしているんじゃないだろうな。
内密にしたい話も結婚関係ならお断り一択なんだ。
何が飛び出してくるかわからず警戒していると、クラリッサはテーブルの上にパンパンに膨らんだ袋を置いた。
カチャッと音がしたので硬貨が入っているんだろう。
「何のお金ですか?」
「ダンジョンの利益の一部よ。後払いする予定だったマジックアイテムの支払料金ね」
懇願されて後払いでマジックアイテムを提供していたんだよな。売れたら金を支払うという無茶苦茶な条件を飲んでいたんだが、どうやら支払を前倒しにしてくれたみたいである。
契約通り進めたっていいのに真面目な女性だ。
「衛兵やその他諸々、お金がかかる時期ですよね。俺に渡していいんですか?」
「ガルドが資金提供してくれたおかげで資金は問題ないわ。だから少しでも借りを返したいの。受け取ってもらえるかしら?」
領地の運営に支障を来さないなら受け取らない理由にはならない。
袋を受け取って中身を確認すると金貨ばかりだった。50枚以上はあるぞ。
「マジックアイテムの買取には足りないと思うけど、誠意だと思って受け取ってね」
「確かに預かりました。受領証へサインしましょうか?」
「ガルドの名前が残ることになるのでやめておきましょう」
貴族から逃げるために死を偽装している。死んだ人間の名前が公的な書類に残るのは正体がバレるきっかけになるので、クラリッサは良くないと思ってくれたんだろう。
この気づかいは非常に助かる。
特にマティルダ王妃がヴァルモントを狙っているとわかっているので、俺がいるという痕跡はなるべくなくしておきたかった。
「それにしても流石ガルドね。冒険者ギルドの治安がかなりよくなったわよ」
「主導者がいたので追い出しただけですよ」
グリッドはある日突然、ヴァルモントから姿を消した。
逃げようとしたのだろう。
貴族の刺客から生き残れただろうか。生死は不明のままである。
「だとしても、治安がかなり向上したので助かっておりますよ」
大きな問題が一つ解決したこともあって、クラリッサの笑顔は明るい。
衛兵の採用が進んでいるのは巡回している人数が増えたことからわかっている。
一時はどうなることかと思ったけど、今のヴァルモントは順調に再成長を続けていると言っていいだろう。
「商隊のほうはどうしますか? そろそろ出発させます?」
「裏切り者の処分が終わったので、近日中には出したいと思いますわ」
参加者の一人がデシアン子爵経由でマティルダ王妃につながっている人がいたとは聞いてる。
多少の情報漏洩なら無視して進めても良かったのだが、マティルダ王妃がヴァルモントを潰したがっているという情報が入ったことで状況は変わる。
商隊を出発させた先で、襲われる危険が出てきたのだ。よくあるパターンとしては、山賊に扮したデシアン子爵の配下が襲ってくる、だ。商品を奪われて商隊は全滅。大赤字で失敗してヴァルモントは破綻する未来もあり得た。
またマジックアイテムの出所を探られるのも痛い。俺にたどり着いたら偽装がバレてしまうからな。
だから商隊のプロジェクトを止めていたのだが、裏切り者がいなくなれば危険度は大きく下がる。またダンジョンから利益が出るようになったので、仮に失敗しても致命的なダメージにならないのもよい。チャレンジがしやすくなった。
「それは楽しみですね。売れたら事業は継続ですか?」
「もちろんよ。ダンジョン運営は何が起こるか分からないから、収益源は複数作っておきたいの」
ダンジョン内にあるコアを抜かれたら崩壊して魔石は産出されなくなる。また低層に強力な魔物が出てしまえば、魔石の産出量は大きく下がってしまうだろう。
決して安定して金が稼げる産業ではなく、不安定な部分はあるのだ。
そのため複数の事業収入を作っておくクラリッサの考えは手堅いなと感じた。
「慎重ですね」
「王妃に嫌われているようですからね。そうなりますわよ」
プレイしていた妹なら理由まで思い浮かぶんだろうが、話を聞いていただけの俺じゃ結果しかわからない。
クラリッサを悪魔と契約させて反乱を起こす。
これを阻止するためには、マティルダ王妃の策略を跳ね返す必要があるだろう。
話を続けようとしていたのだが、ドアがノックされてアリシアが入ってきたことで中断する。
「会談中よ?」
「急ぎの連絡が入りました」
嫌な予感がする。それはクラリッサも同じようだ。
「内容は?」
「数時間後にデシアン子爵が来るようです。直接渡したい物があるそうです」
デシアン子爵はヴァルモントの領主だ。
何を渡すつもりなんだろう。非常に気になる。
「ふぅ、それは仕方がありませんね。ガルドさん、話の続きは明日にして帰ってもらえますか?」
「渡される物が気になります。差し支えなければ私も確認させてもらえないでしょうか」
少し考えた様子をしたクラリッサだが、すぐに返事をしてくれる。
「正体がバレたらわたくしも困ります。変装をするのであれば同席を許しましょう」
「ありがとうございます」
ヴァルモントが順調に潤っている今だからこそ、悪魔に警戒しなければならない。
デシアン子爵との会合は最大限の注意を払うべきだった。




