パパが調子に乗る
グリッドがいなくなった後も内部にいて監視を続けていたが、暴れるような者はいなくなった。新しく人が来ても丁寧に案内する受付嬢の姿も見える。まともな冒険者が増えたようだな。
俺がいることで抑止力になっていると言われて何度かお礼を言われたが、グリッドの手下がいなくなった影響の方が大きいだろう。
監視している間はずっと店を休んでいるので、リリィは勉強をサボって槍の訓練をしている。
裏手の広場に行って様子を見に行くと、数人の冒険者に囲まれていた。一瞬、バカなヤツらが絡んできたのかと思ったが、リリィの笑顔を見る限り違いそうだ。
何を話しているんだろうか。
近づいて見る。
「リリィちゃんというのか! 槍が上手だね」
「でも、こうしたらもっと上手くなれるよ。槍を刺した時に手首をひねるんだ。そうすることで周囲の肉がえぐれる」
「こういうこと?」
槍を突き出してひねった。タイミングはバッチリだ。飲み込みが早い。
「そうそう! すぐにできるなんて才能があるね!」
「えへへ! そうかなぁ!」
褒められて嬉しそうにしている顔は、天使すら逃げ出すほどのかわいさだ。この国に可愛いランキングがあったら1位になってアイドル活動をしていただろう。俺はマネージャーになって、近づく男を斬り殺す役目だ。
当然、枕営業なんてさせない。
要求してきたプロデューサーがいたら生まれてきたことを後悔させるぐらい痛めつけ、最後は殺す。
うん、こういった生活もありだよな。もし俺とリリィが日本に一緒に生まれ変わって――。
「パパ? ニヤニヤしてどうしたの?」
おっと、妄想をしていたらリリィが俺に気づいて近づいていたようだ。
周囲にいる冒険者達がザワついている。
「元Aランクの娘だと!?」
「話しかけちゃったけど殺されないかな……」
「手は出していない。ノータッチだ。大丈夫なはず……だよな」
「槍の握り方を教えるときに指が触れた俺は?」
「終わったな。お前、死ぬぞ」
「ええええっ!」
なんか好き勝手言われているが、指導の途中で指が触れてしまった程度じゃ殺さない。
ちょっとお話し合いをするだけだ。
後で次はないぞって警告をしないとな。
「ダメだよ。パパ」
俺が何をしようか察したリリィが手を開いて止めた。
いい娘に育って嬉しいが、教育は大事なんだぞ。
「なにちょっとだけ大人の話をするだけだよ」
「私を置いてきぼりにして? パパと一緒にいたいな~」
抱きつかれてしまった。身長差があるのでリリィの頭が俺の胸に埋まっている。
義娘にここまで言われたら、お話し合いは今度にしようか。
「そうだな。俺もリリィと一緒にいたい」
背中を撫でながら冒険者達を見る。
「義娘の面倒を見てくれてありがとう。助かったよ」
「いえいえ! 俺たちはこれから仕事があるので、それでは!」
リリィを囲んでいた冒険者たちは、逃げるようにして去って行った。
入れ替わるようにルカスとシアが訓練場に来る。
体は少し汚れている。ダンジョンで一仕事終えた後なんだろう。
「リリィちゃん~」
「シアちゃん!」
二人はかけ出して手を組み合わせて再会を喜んでいる。男はこういったことをしないから、少女っぽいなという感想を持った。
またしてもガールズトークが始まったので、中に入れないルカスが俺の隣に来る。
「ダンジョン探索は順調か?」
「はい。邪魔をするような冒険者はみんないなくなっちゃいました。もしかして、ガルドさんが何かしましたか?」
大人の汚い面を少年に見せるわけにはいかない。
教えるにしてももうちょっと大人になってからだ。
裏の事情は隠しておくべきだろう。
「俺が警備しているから大人しくなったんじゃないかな」
「ダンジョン内でも絡まれることがなくなったので、警備以外のこともしていたのかと思いました」
裏で動いていたことに気づいているような言い方だ。
ルカスはバカじゃないので勘付いているのかもしれない。こういった鋭さも長生きする秘訣だ。無謀なことをしなければ、ルカスはもっと成長できるだろう。
「でも悪いことじゃないだろ?」
「はい。仕事はしやすくなりました。魔石も安定して手に入るようになりましたし、実力も付いてCランクに上がれたんです」
「それはすごいな」
最低ランクのDを卒業すれば一人前と言える。数ヶ月前は丈夫な服しか持っていない駆け出しだったことを考慮すると、成長スピードは異例の速さだ。
リリィは天才中の天才ではあるが、ルカスやシアも負けないほどの才能を持っていそうである。
三人が出会えたのは幸運だろう。
この関係をずっと続けてあげたい。そのためにもクラリッサには頑張ってもらわないとな。
「これから訓練をするんだろ? 俺も参加しようか?」
「いいんですか!?」
「リリィが世話になっているんだ。このぐらいどうってことないさ」
訓練所に備え付けられている木剣を手に取ってルカスへ向けると、スモールシールドを構えながら俺と同じ木剣を構えた。
カウンター狙いなのか動かない。
一足で近づくと上段から木剣を振り下ろす。
スモールシールドで受け流そうとしたが、魔力によって身体能力を強化した俺の力に押し負けてしまい、まともに衝撃を受けてしまった。
「うっ……」
腕に強い衝撃を受けたんだろう。痛みでルカスの顔が歪んでいる。少しでも力を抜けば押し切られてしまうため、反撃に出ることも難しい。
仕切り直しの機会を与えるため、俺はルカスの腹を蹴ってから距離を取った。
「圧倒的な力を前にすると、小細工は通用しない」
腹を押さえながらルカスが鋭い目で見ている。
敵を倒す、その手の強い意志を感じた。
明らかな格上相手に戦意が折れないのはよいことだ。本当の危機が訪れても仲間を見捨てるようなことはしないだろう。
模擬戦をしていることに気づいたのか、シアとリリィが俺たちを見ている。
ちょっと、パパのかっこいいところを見せちゃおうかな。
「来いよ」
手招きして挑発すると、ルカスが飛び込んできた。
息をつかせぬ連続の攻撃だが、木剣で丁寧に受け流していく。十、二十と打ち込まれても俺の体には届かない。
ついに呼吸が辛くなったようで、ルカスは後ろに下がった。
一呼吸置けると思ったんだろうが、それは甘いぞ。すぐに距離を詰めて木剣を横に振るう。スモールシールドを間に挟んで直撃は避けられたが、もろに受けてしまったため衝撃によって転がってしまう。
受け身を取りつつ立ち上がろうとしたルカスの頭上で木剣を止めた。
「俺の勝ちだな」
「負けました」
ふふふ。どうだ! この圧倒的な強さは!
リリィも俺のことを見直して――。
「怪我はない!?」
あれ? 俺を通り過ぎてルカスの体を見ている。
ここは「パパすごい!」って抱きつくところじゃないのか?
「あのリリィ……」
「パパやり過ぎだよ!」
ちょっとお腹を蹴ったぐらいじゃないか。血反吐は出してないし、むしろ手を抜いたぐらいなんだが、眉を釣り上げて怒っているリリィには言えなかった。
「ごめん」
「本当に気をつけるんだよ! じゃないとシアちゃんが悲しんじゃうから!」
「うん。そうする」
人を踏み台にして格好いいところを見せようとした俺が悪かったんだ。
罰が当たったんだろう。
今日は三人にご飯をおごって、リリィの機嫌を取ろう。




