マティルダ王妃の思惑
クラリッサとの会談が終わると、アリシアと一緒に店へ戻ると金庫から大金貨30枚を取り出して渡した。
何度もお礼を言われてしまったが、俺やリリィにも大きなメリットがあるので気にしないでと伝えておく。
ただすぐに治安がよくなるわけじゃない。採用、研修などを経てから衛兵が強化されるのでタイムラグが発生してしまう。空白の期間に俺がやるべきことは冒険者のコントロールだ。
アイツらは武器を持っているため、真っ先に暴力を振るわないよう監視する必要がある。
そう決めたらすぐに動かなければ。
リリィに事情を説明すると、ルカスやシアを守れると喜んでくれた。怪我をしていたのが気がかりだったんだろう。
「パパ、遠慮なくヤっちゃって!」
と、敵対する相手は殺してもいいと物騒なことを言っていた。優しい子に育てたつもりだったんだが、敵には容赦しない性格になってしまったようだ。これは母親譲りだな。遺伝子の強さを感じる。
翌日になると店に「しばらく閉店」の看板を出してから、ダンジョン探索したときと同じ装備をする。グレートソードは室内で振り回すには向かないが、威圧感があるので抑止力としては働いてくれるだろう。
リリィを置いて街を歩く。
何人か冒険者とすれ違ったが、街の人間に暴力を振るうような気配はない。街の外へ向かっているのでダンジョンに入るのだろう。
グリッドが上手くやっているのだろうか。
冒険者ギルドに入る。
ごろつきと変わらない冒険者どもが一斉に俺を見て、グレートソードに目が行き、すぐに視線を外した。
グリッドを探してみると、酒瓶を持ちながらギルドの受付嬢をナンパしていた。暴力は禁止されているが、声をかける行為は合法だ。ルールは無視していない。
だが迷惑行為には変わりないので、大股で歩いてグリッドの頭を掴む。
「ずいぶんと暇そうじゃないか」
「その声は……兄貴! 違うんです! 狩り場の様子を聞いていただけで……」
「本当か?」
カウンターにいる受付嬢へ聞いてみると黙ったままだった。
よく見ると体が震えている。素直に答えても後が怖い、なんて考えているんだろう。
ヴァルモント支部のギルド長は事務系の人間かつボケが始まった老人だ。暴力から守ってもらえるとは、職員全員が思っていないはず。
昔からいる冒険者はダンジョンに入っているし、助けは期待できない。
保身に走るのも無理はないか。
「狩り場の状況は確認できたのか?」
「もちろんです」
「だったら、話があるからこっち来い」
無理やり肩を組んで受付から引き離し、併設されている会議室に押し込めてドアを閉じた。
俺は出口を塞ぐように立っているので、グリッドの逃げ道はない。
格付けをしたが、下手に出すぎていると思っていたんだよな。クラリッサの話を聞いて、もしかしてと思ったことがある。今日は問い詰めるつもりだ。
「あっ、兄貴?」
「お前の裏に誰がいる?」
「俺はどこにでもいる冒険者で、そんなもんいませんぜ」
「名前も知らない貴族からの依頼って感じか。ただ直接話したことはない、そんな感じじゃないか?」
聞いてみてもグリッドの表情は変わらない。ヘラヘラとした笑顔を貼り付けている。
俺の勘は外れたのか?
それだったら別にかまわない。だが本当に誰かの指示で動いているなら厄介だ。攻め方を変えて反応を見るか。
「兄貴は探偵にでもなりたいんっすか?」
「裏にいるのは、お前が思っている以上の大物だ。依頼の結果がどうなっても消されるはずだ。気をつけろよ」
ドアから離れて会議室にある椅子へ座った。
腕を組んで口を閉じる。
いつでも出て行ける状況なのだが、グリッドは動かない。引いてみたら効果はあったようだ。
「話は終わった。出て行かないのか?」
「兄貴の推理が気になりましてね。続きはねぇんですか?」
「お前の裏に誰がいるんだ?」
答えなければ教えない。
帰りたければ帰れ。
俺のメッセージは伝わっているはずだ。
覚悟を決めたのかグリッドは、ニヤニヤしていた表情が一変して無表情になる。俺を油断させるためにしていた、三下っぽい演技は終わらせたみたいだ。やはり誰かの依頼でヴァルモントの冒険者ギルドを争おうとしていたんだな。
ルカスがケガを負った騒動で俺が動く前に止めたのも、手下と直接関わるのを阻止するためだったんじゃないかな。思惑通り後処理をグリッドに任せてしまったし、あながち間違いではないはずだ。
「…………冒険者を扇動してヴァルモントで暴れる。そんな話を聞いたことがありますね」
「その命令を聞いた間抜けは、仲間を連れてやってきたと?」
「かもしれません」
グリッドも椅子に座る。
金よりも命が大事だと思って、話す気になったんだろう。
「誰が裏にいると考えている?」
「そうですねぇ。ヴァルモントはデシアン子爵が治めているので、敵対貴族でしょうか。もしくは敵国って線もありますね」
普通はそう思う。
乙女ゲームの知識がなければ、俺も同意していただろう。
「恐らく依頼してきたのはデシアン子爵の配下だ」
「自分の領地を荒らす? そんなバカなことが……」
「あるんだよ。ちなみにデシアン子爵の裏には王家がいる」
「王家……継承争いですか」
「恐らくな」
妹からの話で覚えているのは、第一王子と第二王子が争っていることと、マティルダ王妃が第二王子派閥のトップだったことぐらいだ。
今のところ他に原作知識はない。
異世界に転生するなら、もっと真面目に話を聞いておくべきだった。ったく後悔ってのは、いつも手遅れのときにやってくるな。
「この話が本当なら、依頼を受けたヤツは本当に間抜けですね。あの王家なら成否にかかわらず、必ず消しに来るでしょう」
王家の非情な対応には心当たりがあるようで、グリッドは確信していた。
仕事を続けても無駄に終わるとわかった今、どうするつもりなんだろうか。




