最近の冒険者事情
「ルカス君が怪我をしている! 大丈夫!?」
店に入ると、リリィがすぐ異変に気づいて駆け出してきた。
ペタペタと体を触って状態を確認している。
「ちょっと殴られただけだから大した怪我はしてないよ」
「本当?」
「うん。ね、シア?」
涙で目が赤くなったシアはうなずくと、俺を見た。
「これもガルドさんのおかげです。ありがとうございます」
「お礼はもういい。気にしないでくれ」
歩いている途中でも何度もお礼を言われたのだ。
もうお腹いっぱいである。
ルカスを二人に任せて、俺は店のカウンター下にある引き出しを開ける。
ここにはペンやインク、羊皮紙の他に錬金術師の作った回復ポーションがあるのだ。強盗が入って襲われ、怪我をしたとき用に取っておいたのである。
ポーション系は即効性があるため冒険者にとっては非常に需要のあるアイテムだが、貴重な素材を使っているため価格は高い。一本当たり金貨数十枚ぐらいはする。中堅と呼ばれるランクCでも、金銭的な事情で購入は難しいほどの高級品だ。
紫色の液体が入った瓶――回復ポーションを取り出すと、シアは目を大きく開いて驚いていた。
「ガルドさん、それって噂に聞く回復ポーションですか?」
「物知りだな」
普通に活動していたら見ることはないだろうに。
よく気づけたなと思う。
「いつもルカスが無茶するので、お金を貯めたら買おうと思っていたんです」
「慎重なシアらしい考えだな」
木製のスモールシールドの傷跡を見れば、駆け出しの冒険者なりに激しい戦いをしていたことはわかる。
魔法系のジョブに就いているだろうシアは後方で守られてばかりだ。どうにかして助けてあげたいと思って、回復ポーションにたどり着いたんだろう。
優しい心を持った女性だ。
こういった子は助けたくなる。
回復ポーションが入っている瓶の蓋を取ると、ルカスの頭に振りかける。
腫れが引いていく。
それどころか魔物との戦いでついた細かい傷すらも消えて、つるりとした肌になった。
美容効果もあるので貴婦人たちに人気と聞いたことがあるが、ルカスを見る限り噂は本当なのかもしれないな。
「痛くない!」
怪我が治ったルカスは体の調子を確かめている。
ぴょんぴょんと飛び跳ねていて、怪我の後遺症はなさそうだ。
一方でシアは俺を見て不安そうな顔をしている。お金を請求されても払えないと思っているんだろう。
「俺のおごりだ」
「それはすごく助かるんですが……いいのですか?」
「駆け出しの頃は人に助けてもらいながら成長するものだ。もし恩を感じたのであれば、上位ランクになった時、俺の防具を宣伝してくれ。それで元が取れる」
上位の冒険者が常連となれば、業界内での宣伝効果は抜群だ。
店に客は来てくれるだろう。
ただ有名になりすぎても俺の正体がバレてしまう危険もあるので、ほどほどがちょうどいいんだけどな。
「わかりました。ガルドさんのためにも頑張ってランクを上げますね」
「だからといって無謀なことはするなよ。全ては生きてこそ意味があるんだからな」
「はい! ルカスにもしっかりと言っておきます」
怪我も一段落したので、そろそろ増えてきた冒険者について聞いてみることにした。
「最近の冒険者ギルドは、いつもあんな感じなのか?」
「今日ほどのことはあまり起こらないんですが、乱暴な人が増えてギルドも対処できずにいるみたいです」
「衛兵は動いてくれないのか?」
代官の配下にいる衛兵は、街の治安を守るために活動をしている。
冒険者でも遠慮なく取り締まる暴力装置であり、通常であれば冒険者ギルドが助けを求めて取り締まりをするはずだ。なぜ動かないのか。大きな疑問であった。
「他にも事件が沢山あるみたいで、手が回ってないようです」
少し前まで寂れた街だったんだ。税収にあわせて衛兵の人数も減っていたはず。
採用が間に合わず急激な変化に対応出来なかったんだろう。
「最近来た冒険者は粗暴なヤツらばかりか? 真面目なのもいるか?」
「真面目な人はいませんね。みんな盗賊みたいな人たちです。冒険者ギルドの命令すら無視しています」
今日みたいな出来事は珍しくないらしい。
「流石にそれはおかしいな」
ギルドに逆らって生きていけない。
どんなバカでも理解していることだ。
だがヴァルモントに集まってきた冒険者は、常識を無視して暴れ回っている。
明らかに異常だ。
隠れた悪意を感じる。
「私もそう思います。どうにかならないのでしょうか?」
「クラリッサに事情を聞く必要があるな。会ってみるか」
普通なら平民が会いたいと言っても門前払いになるが、いろいろと恩を売ったクラリッサであれば話を聞いてくれるだろう。
その時に代官として、どのような手を打っているのか確認すればいい。
もし問題を認識してないのであれば、今回の情報を伝えることで対策が練れるはずだ。
ダンジョン発見からヴァルモントは大きく変わっている。
これがシナリオ通りではないことは間違いない。だからこそ、もしかしたら修正力というのが働いているのかもと不安に感じていた。




