死なれたら困るので丁寧に説明する
「ったく、この街はどうなっちまうだろうな」
個人じゃ抗えない衰退という大きな流れがある上に、新しい代官が来るのだ。不安そうにしているロディックのつぶやきは、俺にも痛いほど気持ちが分かる。
「俺にもわかりません。なるようにしかなりませんよ」
「そうなんだが……」
「こんにちは~」
ロディックと話していると、入り口から声がした。
視線を向けるとボロボロの服に短剣をぶら下げている少年が立っていた。後ろには怖がっているのか、腕を掴んでいる少女がいる。エンチャント効果が付与された杖を持っているので、魔法系のジョブを持っていそうだ。
年齢はリリィより少し上だが離れすぎているとは感じない。
13前後かな。冒険者になれるギリギリの年齢で、廃れたこの街じゃ珍しいので、近くの村から追い出された駆け出しの冒険者って所だろう。
依頼は一度も受けていないか、街で終わる安全なものだけ。これから外にいる魔物とも戦いたいから準備している、って感じかな。
予算はほとんどないだろう。
「いらっしゃい。防具専門店へようこそ」
客を逃がさないように声をかけてから歩み寄る。
「何をお探しで?」
「盾が欲しいんですけど……僕でも買えそうですか?」
「希望の大きさや形は?」
「買えるなら何でもいいんです」
「見繕うから、カウンターの方で待っててくれ」
「は、はい!」
緊張しているのか、少し噛みながらも少年と少女はリリィがいるカウンターへ向かってくれた。
ロディックが世間話をしてくれているので、三人とも楽しそうにしている。面倒見のいい性格だ。近所にいてくれて本当に助かる。
俺は四人が話している間に展示している商品を確認しているんだけど、今は高めの物ばかり置いているので、駆け出し冒険者じゃ手が出ない。
売れる物がないんだが、だからといって門前払いするのは嫌だ。
駆け出しの冒険者は無理をしがちなので、ちゃんとした盾を持たせて安全性を高めてあげたい。
それが防具専門店としてのプライドである。
売れそうな物がないか、作業場の隣にある倉庫へ行って在庫の山を漁ってみる。鎧やガントレット、ヘルムといった中に、片手に着けられるスモールシールドを見つけた。
ナイフでも削るのが難しいほど硬いと言われている、ヘルウッドという木材で作られている。さらに俺の魔力を注いで強化しているので、そこら辺にある鉄製の盾よりも頑丈だろう。
ホコリがかぶっていたので、手で叩いて落としていく。
「懐かしいな。何年前に作ったんだっけ」
確か鍛冶師として修行を始めた頃に、鍛冶師ジョブのスキル検証として作った気がする。
スキルというのは面白いもので、本人が本当に防具を作っていると思っていれば、木材でも効果を発揮してくれたのだ。やったことはないけど、糸を用意して防護服を作ろうとしたら、鍛冶師のスキルは発動するだろう。
鍛冶、裁縫、木工……いろんな生産ジョブがあるけど、どれも素材ではなく、結果として何を作るかが大事なのだ。
他にも同じ木で作った、スモールシールドよりもさらに小さくパリィしやすいバックラーと、下部が尖っていて下半身も隠せるカイトシールドを持って店に入った。
「お、戻ってきたぞ。後は店主のガルドに任せて俺は帰る」
軽く手を挙げてくれたので、接客のお礼として軽く頭を下げる。
笑顔のロディックは店を出て行った。
「今の君たちにあいそうな盾を持ってきた」
カウンターに三つの盾を並べると、少年と少女、そしてリリィが興味深そうに見てみた。
商品のことは義娘にも詳しくなって欲しいので、ここは丁寧に説明するべきだろう。
「一番小さいのはバックラーだ。手で持つので受け流すのに特化している。盾と言うよりも補助装備だな。見ての通り、防御力は一番低い。続いて真ん中のサイズは、このなかで一番バランスがいいスモールシールドだ。腕に着けるので攻撃を受け止めることもできるだろう。個人的には初心者に一番向いていると思っている」
リリィ、少女、少年と横に並んだ三人は、同じタイミングでうなずいてくれている。
俺が商品を選んでいる間に、息が合うほど仲良くなったのだろうか。
「一番大きいのはカイトシールドと呼ばれていて、下半身まで守れる。その代わり取り回しが難しいので、小回りが利かなくなるのは難点だな。もしこれを選ぶなら、攻撃役がもう一人は欲しいところだ」
説明を終えると、リリィが口を開く。
「パパはスモールシールドがオススメ?」
「二人だけならそうなるな」
「だって、シアちゃん、ルカスくん、どうする?」
知らない間に自己紹介まで終わっていたようだ。
悩んでいるルカスは黙ったままだが、杖を持ったシアは俺に質問をしてくる。
「どれも木製ですけど、どのぐらいの攻撃に耐えられますか?」
「いい質問だ。結論から言うと、ゴブリンが持っている錆びた剣程度なら傷一つ付かん。この辺に出てくるウルフ系の魔物でも攻撃は耐えられるだろうな」
「かなり丈夫なんですね!」
想像していたよりも性能が高くて驚いているようだ。シアは目を丸くしながらも、どこか笑っているようにも見えた。
「俺が魔力を込めて丁寧に作ったからな。どれも自信作だが、だからといって過信したらダメだぞ」
「はい!」
素直な子だ。こういった性格は、生き残れば伸びるぞ。
常連客になってもらうようサービスしても良いだろう。
おっさんから期待する若者へのプレゼントだ。
「それで、おいくらですか?」
ルカスは性能よりも値段が気になっているようだ。冒険者は雑な性格の者が多く金勘定を後回しにしやすいので、金額をしっかり確認するところも好感が持てる。
二人とも慎重な性格なんだろう。
「バックラーは銅貨4枚、スモールシールドは5枚、カイトシールドは8枚でどうだ?」
「安すぎませんか!?」
驚いて当然だ。
日本円にすると400円から800円で売ろうとしているからな。
サービスの域を超えてほぼプレゼントだ。
「当然、裏はある。防具は俺の店で継続して買うと約束してくれ」
「他に条件は?」
「ない」
「買います! 買わせてください!」
「いいのか? 二回目は、ぼったくるかもしれないぞ?」
安易に決めたルカスが心配になって、思わず聞いてしまった。
そんな俺を面白そうに見ているのはリリィだ。
「二人とも安心して。パパはそんなことしないよ」
「私もそう思います」
「僕もだ。だからスモールシールドを買わせてください」
店主である俺よりもリリィへの信頼度が高いな。ルカスよ、友達までなら許すが恋人となるなら、元トップレベルの冒険者である俺が壁として立ちはだかってやる。死ぬぐらいの覚悟をしろよ。先ずは素手での殴り合いをして、その後は武器を持って決闘を……と、妄想している間にカウンターに銅貨が5枚置かれた。
歪な形になっていて、古さを感じさせる。もう少し質が悪ければ、どの店も受け取り拒否をするだろう。
「着け方はわかるか?」
「多分……」
「不安だな。一度俺が着けてやるから覚えるんだぞ」
道具は正しく使ってこそ効果が発揮される。
俺の防具で死なれたら目覚めが悪いので、腕を通した後に固定する方法を教え、ちゃんと装着出来るようにしておいた。
後は盾を使いこなすテクニックがあれば、街の周辺に出てくる魔物ぐらいなら安全に狩れるだろう。
「無茶はするなよ」
「はい!」
元気よく返事をすると、駆け出しの冒険者である二人は店を出て行った。
俺の防具で生き残ってくれればと願っておこう。
残ったリリィは少し寂しそうにしていたので、頭を撫でておく。
「また来てくれるかな」
「もちろん。次は銀貨レベルの買い物をしてくれるさ」




