装備のアップデート
ダンジョンから出た後のクラリッサの動きは素晴らしかった。
冒険者ギルドに発見と一階の調査結果を共有して、領主が主導するダンジョン運営方式に決まる。言葉にすれば簡単そうに見えるが、クラリッサは代官という立場なので、上にいる領主と冒険者ギルドの両方と交渉しなければならず、想像を絶する苦労があったことだろう。
発見したダンジョンの情報を聞きつけた冒険者もポツポツと来るようになっているし、少しだけ街は賑わいを取り戻している。
とはいえ全盛期にはまだ足りない。
もっと多くの冒険者に来てもらわなければ困るのだが、最奥にあるコアを取られたらダンジョンは崩壊してしまうので、攻略ペースはゆっくりにして欲しい。
といった贅沢な願いを抱きつつ今日も防具専門店を開いているのだが、いつものごとく客はいない。
今日も近所にいる暇なロディックが来店しているので、俺は暇つぶしがてら噂話を聞いていた。
「ダンジョンが見つかってから冒険者が少し増えて、飯屋のばーさんは見違えるように元気になったぞ」
個人で経営しているから店は大きくないけど、家庭的な味がして俺たちもお世話になっている。
最近は客が減ってしまい元気がない姿を見かけていたんだけど、冒険者たちが来るようになって張り合いみたいなのが出たらしい。
人間、誰かの役に立っているって実感は大事だもんな。
「へぇ~、いいですね。俺の所とは大違いだ」
「防具専門店なんて止めちまえばいいんだよ」
「そうもいかないんですよね」
過去、俺が作ったアーティファクトを使って大量殺人鬼を出したことがある。
その時のトラウマがあって武器を作る気がしないのだ。
無理に作ったとしても集中力が持たずに、失敗作ばかり作ってしまうだろう。そう言った意味でも武器作りの依頼は受けられないのだ。
「職人としてのプライドか?」
「そんな高尚なものじゃないですよ」
過去を深掘りされたくない。話題を変えようと思っていたら店のドアが開いた。客が来たようだ。
入ってきたのは常連のルカスとシアのコンビだ。
カウンターで俺たちの話を聞いていたリリィは、勉強を投げ出してシアに抱きついた。
「元気だった~?」
「うん。リリィちゃんも?」
「もちろん!」
その後は、最近の出来事を話し合っているようだ。ガールズトークに入れないルカスは、一人寂しく俺たちの所へ来る。
「いらっしゃい。今日はどのような用件で?」
「盾のメンテナンスに来ました」
カウンターに置かれたのは、俺が売りつけた木製のスモールシールドだ。
大きな傷がいくつも付いていて、ルカスの身を守ったことを感じさせる。
また裏側にある固定ベルトは使用感が出ていて、しっかりと使っているともわかった。
「なんだ。客はいるじゃないか」
「店で唯一の常連客ですけどね」
「それなら俺の店の常連にもなってくれ。サービスするぞ」
いきなり営業をされてルカスを助けるため、俺がフォローをする。
「この人はロディックさんといって、保存食を売っている店を経営している。ダンジョン探索をするならお世話になるだろうから、たっぷりとサービスしてもらいな」
「はい! よろしくお願いします!」
「元気がいいな。そういうのは好きだぞ」
孫扱いしているのか、ルカスの頭をグリグリと撫でている。
ロディックさんも若い人が増えて嬉しいんだろうな。
こういった変化が出ているのもすべてクラリッサのおかげだ。心の中で感謝をしておこう。
「それでスモールシールドのことなんだが、大きな傷はいつついたんだ?
「ダンジョン発見時です。ガルドさんから買った盾がなければ何度か死んでました」
俺の売った防具で命が助かったのであれば、これ以上の喜びはない。
さらに街が発展するきっかけにもなったんだから最上の結果と言えるだろう。
「これは寿命だな。これ以上使うのはオススメしない」
「やっぱりそうですか」
納得していて、あまり落胆しているようには見えない。
大きい傷が付いていたので、俺がそう言うだろうとは予想が付いていたみたいだ。
「ダンジョン探索をするには、全体的に防具が貧弱すぎる。この機会だから、一式更新してみないか?」
「そうしたいんですが予算が……」
「いくらなら出せる?」
「銀貨十枚です」
ダンジョン発見の報奨金をもらったはずなんだが、思っていたよりも予算がないな。
腰にぶら下がっている剣が新しくなっているので、先に武器の方を新調したんだろう。防具は金がかかるからな。気持ちはわかるが、丈夫な服だけでダンジョンに突入するのはよろしくない。
「見繕ってくる。ちょっと待っててくれ」
接客をロディックに任せると、俺は倉庫へ入った。
ワイルドボアの皮を使った胸当て、ガントレット、ブーツ、ヘルムのセットとシアに着てもらうキュウリオス草の繊維を使った防刃性の高いワンピースを持った。他にも金属で作ったスモールシールドをサービスしてやるか。
大量の商品を持って店に戻ると、カウンターに並べる。
「これで銀貨十枚だ」
「ええ!? 安すぎません?」
「リリィの訓練に付き合ってもらってるからな。その分を引いている」
「だとしてももらいすぎな気が……」
「冒険者が遠慮なんてするんじゃない! ありがたくもらっておけ!」
部外者であるロディックが言うことじゃないんだが、同じ気持ちだったので突っ込むのは止めておいた。
「ダンジョンを探索しているんだろ? このぐらいの装備は最低限必要だ。リリィのためにも受け取ってくれ」
「……わかりました。このご恩は常連客になることでお返しします!」
「期待しているぞ」
二人に死なれたらリリィが悲しむからな。
俺もできることがあったのにと後悔すること間違いない。
赤字で販売するのは商人として失格なんだろうが、趣味で経営しているようなもんなんだから気にしない。俺は客を選別するし、優遇もするんだ。
「つけ方はわかるか?」
「やってみます」
ぎこちないながらも、ルカスは胸当てを含めた装備を身につけた。
初めてだと意外と付けるのに苦労するはずなので、どこかで経験があったんだろう。
ちゃんと固定できているか確認しても問題はない。おまけに持ってきた金属製のスモールシールドの重さも問題なさそうだ。サイズは木製の時と同じなので、感覚を微調整すれば今まで通りに運用はできるはずだ。
「シア! 新しい防具を買ったから試着してくれないか!」
「うん。すぐ行く~」
ルカスにワンピースをもらったシアは、更衣室に入って着替えて出てきた。
サイズはバッチリだ。裾も膝が隠れる程度の長さで戦闘の邪魔にはならないだろう。
「その服はナイフで斬りつけても破けないし、クッション性もあるから打撃にも強い。巨人に出会わなければダンジョンの一階で怪我をすることは、ほとんどないだろう」
「そんなすごいのを買ったの!? ルカス! お金は大丈夫だった?」
「うん。おまけしてもらえたから、予算内だったよ」
シアが俺を見た。
いいんですか? とでも言いたそうだ。
「リリィが悲しむところを見たくないからな」
この一言でシアは俺の気持ちを察してくれたようだ。
もう確認するようなことはしない。
「ありがとうございます!」
お礼を言った後も、二人はリリィとしばらく話していた。
三人の仲は深まっている。
冒険者の半数以上は引退前に死ぬような世界だが、彼らは無事に過ごして欲しい。
そう願わずにはいられなかった。




