第7話 逆ハーレム、始動?
王宮西庭――白砂を敷いた訓練円形闘技場。潮騒を背に剣戟が跳ね、魔術の余熱が空気を歪める。女王命令の“交流訓練”初日、私は三人の青年と相対していた。
最初に踏み出したのは剣士狩真。
長身痩躯、黒髪を一束に結い、瞳は刃のように細い。抜刀術一閃――木剣が腕を掠め、潮の匂いの血が滲む寸前で止まった。
「速い」
私の呟きに、彼は無表情のまま喉だけで笑う。
「まだ七割。もっと見せろ、“波の姫”」
続いて杖を掲げた魔導士猫嵐。
灰銀の髪、猫科めいた耳朶の尖り、琥珀色の瞳に悪戯の光。詠唱の合間に舌を出し、空間へ月白の紋章を描く。柔らかな風が渦を成し、私のローブを撫でる。
「本気で防がないと持っていかれるよ。君の海、僕に見せて?」
最後は盗賊獅王。
炎色のドレッドと金牙を覗かせる笑み。砂を蹴った瞬間、影すら残さず背後に回っていた。
「俺は獲物を傷つけない。奪うだけだ」
囁きと同時、腰の水晶短剣が抜かれ、彼の掌に収まる。
三者三様の距離感と好奇の視線が、私の鼓動を別々のリズムで叩く。
誰かを選ぶ? 選ばれる?
戸惑いの潮が胸を往復するが、剣士の鋭さ、魔導士の戯れ、盗賊の野生――どれも否定できない魅力。
稽古の合間、観覧席でアガニオが腕組みしながら私を見守っていた。朱の瞳にゆらり射す熱。嫉妬? それとも護りたいだけ?
私は視線を逸らし、木剣を握り直す。
“選び取るのは、まだ早い”。だけど心が彼らを測り始めているのを、私自身が一番知っていた。
夕暮れ、訓練は解散。
狩真は刀身の手入れを申し出、猫嵐は「月夜の散歩」を誘い、獅王は私の髪飾りを「護る」とポケットに忍ばせた。
火薬庫の前で待っていたアガニオが、三人の仕草を無言で見送り、私にだけ柔らかい笑みを向ける。
――胸の潮位がまた微かに上がった。