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波と炎は恋に落ちる-継承者ネライアの異世界予言録-  作者: NOVENG MUSiQ
第4章 ここにいる――名を返す都市の拍

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第47話 玄叉、削除の終わり方

 ――無響庫で整えた作法を、外気に延ばして“無響域”にする。

 場所は鐘楼下の窪み。潮燈線が交差し、昨夜まで穴の縁が残っていた地点だ。門を三重に重ね、場そのものを裏返す。交渉の机をひっくり返すために。


 ネライア「第一門――【海潮同律】」

 アガニオ「第二門――【熾火律動】。低拍で床に浸す」

 猫嵐「第三門――【風紋合奏】。閂は半拍遅らせる」


 三つの門が重なり、広場一帯が無響域へ転じる。ここでは祈りも命令も“返らない”。返らない場は、**玄叉(黒の槍)**が最も嫌う地形だ。

 黒い柱影が立ち、声のない声で条件を列挙しようとする。誰かの名を差し出せば港は救う、火を刃にすれば王都は眠れる――それが遅延を肥らせてきた論法。けれど今日は、玄叉の“台”がない。


 リコイ「返事をしないことが返答になる場所。ここだけは、片側が黙っていられる」

 燈司「記録。交渉文、採録不能。無響域により“条件”は紙片未満」


 私は白叉を胸に立て、質問だけを通す。三者一致の合図がそろう。

 白叉『誰に返す?』

 対象が特定されないかぎり、刃は沈黙を突き破らない。糸口は絡まず、玄叉は自重で痩せる。━━“けほけほ、けほ”。

 咳は三度。三拍目は半拍遅らせた。


 アガニオ「終わりは爆ぜないほうがいい。灯りは続くためにある」

 狩真は刃を抜かず縁だけを留め、獅王は逃げ跡を剥がす。猫嵐は風で“拍の埃”を掃いた。

 やがて影は“紙より軽い”透明に薄まり、座標だけが残る。私は柄でそっと押さえ、位置情報として燈司へ渡した。


 燈司「格下げ完了。危険物から“記録の見出し”へ」

 リコイ「交渉の机がない限り、彼らは増えない。強くも、しつこくもない。ただ“薄い”だけ」


 胸の内で二人の名を交互に呼ぶ。音依亜、ネライア。判決は併存。どちらの沈黙も私の資産。

 ネライア「ここにいる」


 鐘楼が一度だけ呼吸し、街路の灯が順に明滅する。勝利の音は小さい。だから長持ちする。生活に似ている。

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