表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波と炎は恋に落ちる-継承者ネライアの異世界予言録-  作者: NOVENG MUSiQ
第4章 ここにいる――名を返す都市の拍

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/48

第42話 偽ネライア、拍の欠落

 回廊。夜の脈拍が灯の列で刻まれる。曲がり角の先に“私”が立っていた。顔も姿も、声の高さまで同じ。けれど、拍がない。

 偽ネライア「港の副座は囮。白叉を捨てて、城の印章を持ってきて」


 文言は“正しい言葉”の並びなのに、二拍目と三拍目の間に空洞がある。猫嵐が風で埃を巻き上げ、床へ音の等高線を描いた。

 猫嵐「うん、拍が空。『呼ばれた名の返事』がない」


 狩真は刃を抜かず、影の逃げ道だけを留める。

 狩真「言葉は似てるが、呼ばれ方が違う」


 私は白叉を刺さずに向け、胸元で構える。

 ネライア「【白叉応答】。――誰に返す?」


 偽は答えを探すが、見つけられない。似姿は“名の所有者”ではなく借り物だからだ。呼ばれても返事の拍が生まれない。

 偽ネライア「……城、印章、遅延の……」


 燈司が短冊に音節を採譜し、空白だけを抜き出す。

 燈司「沈黙の質が違う。こっちの無は“他人の無”。君のは“君の資産”」


 アガニオが低くテンポを打つ。

 アガニオ「【熾火律動】低拍。半拍遅れ、いくぞ」


 私は【海潮同律】で膜を張り、猫嵐が風の閂を入れる。三者一致。

 三人「【交響蒸潮・第三式〈潮門封鍵〉】」


 門は閉じるために立ち、偽の輪郭に“咳”を生ませる。━━“けほ”。

 影が剥がれ、床石に三叉の影だけが残った。影の向きは港ではない――内陸だ。

 リコイ「三叉は星座。読み替えれば渇海廟の柱配列」


 燈司は回廊の砂塵を叩き、星図に重ねる。

 燈司「一致。港の副座は“戻り口”で、根は廟」


 獅王が短く笑い、私の髪飾りを整える。

 獅王「穴は嫌いだ。だから掘って、埋める。明日は根だ」


 偽は空気に散り、甘い麻の匂いが一瞬だけ残った。港を連想させるが、行き先は逆――城の外縁から乾いた窪地へ。

 私は白叉を包み直し、胸の内で自分を呼ぶ。

 ネライア「ここにいる」


 喉が湿り、沈黙が私のものであることをもう一度確かめる。次は、黒柱の星座――根の反転。門は開けるためではなく、閉じるためにもう一度立てる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ