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波と炎は恋に落ちる-継承者ネライアの異世界予言録-  作者: NOVENG MUSiQ
第4章 ここにいる――名を返す都市の拍

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第39話 豹鱗の余白

 夕刻、桟橋の杭に黒い三叉の焼印が浮いた。聖痕めいた白が、その周囲だけ整いすぎている。港湾長・豹鱗は、笑ったまま人波から抜け落ちた。

 ネライア「あなたを疑いたくない」

 豹鱗「私も、疑われたくない」


 交差点に穴が開く。縁は磨かれていて、落ちても怪我をしないよう“親切”に見える。その親切さこそが悪意だ。

 猫嵐「“優秀”に消える人は、戻る場所を先に用意する。副座は三つ、戻り口も三つ」


 燈司は失われた帳簿一冊ぶんの“空白”を別紙で補う。抜き跡の断ち切りが紙繊維まで綺麗――丁寧すぎる手癖だ。

 燈司「白は意図だ。『ない』は情報」

 獅王「穴は埋める。埋めさせる。郵便係なら、今度は戻す側の作業をしろ」


 狩真は港から城内へ抜ける“影の回線”を仮封する。刃は抜かない。

 狩真「封は仮。明日本封する」


 アガニオは灯りを欠いた掌で、拍だけを私へ渡す。

 アガニオ「三和音で“閉じる門”を、港の三座に同時に立てる。芯は第二式のまま、鍵だけ第三式に差し替え」


 リコイは砂時計を返し、月の角度を書き足す。

 リコイ「明夜、無響庫で白叉の“再調律”を。刃は奪う道具じゃない、問う器具。返す順序を都市の拍に合わせ直す」


 私はうなずく。白叉は“再取得”ではなく“再調律”。条件は出さない。呼び合いを増やし、記録で挟む。門は閉じるために立てる。

 胸の奥で、音依亜とネライアを交互に呼ぶ。判決は併存。私が私を返す順番は、いつでも最初。ここで躓けば、他人の名を返すときに手が震える。

 ネライア「ここにいる」 ━━“けほ”。


 港の風がわずかに湿り、杭の焼印は“読み取り線”だけ残して痩せた。

 夜のはじめ、灯を一本ずらす。等間隔は美しい。だが美は罠の布団になる。ずれは狙い、狙いは地図、地図は怖さの薄め方。

 私は白叉の柄を握り、皆の顔を見る。火は灯り、風は閂、水は羅針。伴柱で支える。返す夜へ向けて、生活の拍を一段上げた。明日は無響の白で“問い”を研ぎ澄ます。奪い返すためではなく、返すために。

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