表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波と炎は恋に落ちる-継承者ネライアの異世界予言録-  作者: NOVENG MUSiQ
第4章 ここにいる――名を返す都市の拍

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/48

第38話 沈黙の徴税

 正午過ぎ、記録院の署名台から“名前だけ”が蒸発した。墨は残り、手の温度も残り、名の結び目だけが乾く。

 リコイ「渇きはまず“名を呼ぶ声”を徴税する。潮騒より先に」


 私は市場の屋台に【海潮同律】の薄膜を張り、売り手が客を、恋人が恋人を、迷子が自分を呼ぶ声を拾い直す。呼ばれた名は帯に乗って往復し、屋台の木肌に微かな湿りを残した。揚げ油の甘さ、柑橘の皮、麻ロープの香――匂いは生きている。だから音も戻れる。

 燈司は消えた灯の座標を地図へ落としていく。昨夜の【交響蒸潮・第三式〈潮門封鍵〉】で掴んだ“半拍遅れ”の癖は、紙の上でも皺になった。

 燈司「半拍遅れは今日も有効。霧は“規則”に弱い」


 猫嵐は笑いの密度を風で増幅し、台所と舟室に“呼び合い”の儀を配る。

 猫嵐「配膳前の『ここにいる』二唱、広めといた」


 獅王は桟橋の杭で焼印の向きを読み、穴の成長方向を指す。

 獅王「港から城内へ“寄生先”を探してる。穴はかわいくない」


 狩真は影の逃げ道を斬らずに“留め”、逆風だけを作る。

 狩真「人の速さじゃない。紙の速さで追う。帳簿の白は足跡だ」


 私は白叉を抜かない。返す相手が特定できないうちは、刃を掲げず“質問の気配”だけを縁に触れさせるのが最善だ。

 ネライア「白叉の返答は三者一致。発起・拍持ち・拡声――承認が揃わなければ返さない」


 アガニオは掌で小さく拍を刻む。火炎紋はまだ灯りを欠いた“貸し”の状態だが、テンポは戻っている。

 アガニオ「俺は拍だけ刻む。刃にはしない」


 港湾長の動線は“正しすぎる”。正しさは偽装の素材だ。私は喉の奥で自分を呼ぶ。

 ネライア「ここにいる」


 言葉に湿りが乗るたび、市場のどこかで小さな灯が点る。灯は刃ではない。長持ちさせるため、誰に返すのか/なぜ今ではないのかを場ごとに言語化して渡す。誤配は名を傷つける。返答は生活の拍に合わせて行う――それが今日の“税”への支払いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ